暮瀬堂日記〜もうひとつのディスタンス
十一月に入って新型コロナウィルス感染者が増えてきた。特に、北海道での増加数が際立ち、再び飲食関係の店舗に時短営業などの要請が出されようとしている。GO TOキャンペーンによる影響は否定出来ないが、経済も回さなくてはならないので難しいものである。
ソーシャルディスタンスが叫ばれて半年、人々の間にも距離をとることが根付いてきたが、その度に思い出すのが、吉田一穂(いっすい)の「母」という詩である。
あゝ麗はしい距離(ディスタンス)、
つねに遠のいてゆく風景……
悲しみの彼方、母への、
捜り打つ夜半の最弱音(ピアニッシモ)。
何と美しい詩であろうか、と瞑目させられる。
広がりゆく郷愁と長い影、交わるはずの無い水平線と地平線が交差するときの幽かな音。これほど流麗なディスタンスがあれば、ウィルスも接近し得ぬであろう。
北海道が生んだ詩人吉田一穂、二十八歳で上梓した第一詩集『海の聖母』に収録されている。
終日詩集を手にしていた。
(新暦十一月六日 旧暦九月ニ十一日 霜降の節気 楓蔦黃【もみじつたきばむ】候)
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