暮瀬堂日記〜溢れ蚊(あぶれか)
そう言えば今年は蚊を見かけない感じがする。真夏になるまでは網戸に張り付いているのを目にしたが、ここ二ヶ月くらいは姿を消してしまった。
私のマンションは五階なのだが、昨年までは網戸の開閉の隙をついて入って来たものだった。
蚊は夏の季語なので、バテてしまうイメージが無かったが、さすがに草木の陰に涼んでいるのだろうか。
一雨降って一気に暑気も納まれば、日に日に動きも鈍り、哀れ蚊らしい様を見せるだろう。
鰐口にぢつと溢れ蚊雨宿り
冷たくなった雨を避け、観音堂の鰐口に身を縮める晩年の蚊の姿が思い出された。明日の塒(ねぐら)を決める気力も無いのだろうか、雨しぶきにもその場を離れずに
身を固めていた。
刺されたくはないが、蚊の姿にも情趣を感じられる心でありたいものである。
※溢れ蚊……あぶれか。哀れ蚊(あぶれか)。八月蚊(はちがつか)。秋の深まりゆき、次第に蚊の動きも弱まり、人を刺す力も弱まって来る。古俳諧から詠まれているように、俳諧師たちも床しさを感じ取っていたのであろう。仲秋の季語。
(新暦九月八日 旧暦七月二十一日 白露の節気 草露白【くさのつゆしろし】候)
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