【ACⅥ小噺】エアちゃんが依頼を受ける話前編【二次創作】
恋する女の子は可愛いと思う紅月シオンです
今回は小説を書きたくなったので久しぶりにACⅥの二次創作をしたいと思います
ちなみに設定と前作はこちらから↓
今回の話は過酷なルビコン3での生活の合間に行われたエアちゃんが頑張る話です
それでは始まりますのでどうぞお付き合いください
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惑星封鎖奇行との戦いも一段落し、彼らがルビコンから去ってしばらくしたこの地では相も変わらず企業による代理戦争が勃発していた
【レイヴン、敵AC左から来ます】
「うん、わかってる」
レイヴンは素早くレバーを引きACを宙に浮かせるとそのまま勢いを乗せ加速した。
瞬間的に体にかかる多大なGを背中と臓腑に感じながらその勢いを堕とさない様レイヴンは巧みにレバーを交互に動かす。
その直後、ガァンという鈍い音と共にACの足が敵機体の横っ腹を強く蹴とばす。
逃げ場を失った衝撃はそのまま機体を伝い、彼方に跳ぶまで1秒もいらなかった。
やがてその衝撃がジェネレーターにまで響いたのか、空中で機体は爆散し後には屑鉄の雨が降るだけだった
【これで依頼は完了ですね、お疲れ様でした、レイヴン】
「うん、疲れたね、帰ろう」
レイヴンと彼の脳裏に直接語り掛ける声、エアは依頼完了の旨を伝えるとそのままウォルターの元へ連絡をする。
「621,終わったか?」
簡素な問いかけだがウォルターは上機嫌なのか口元をほころばせていた。
「うん、楽な仕事」
「分かった、すぐにヘリを手配する。そこで待っていろ」
それだけ言うと連絡を切った、もうあと5分もしないうちに輸送ヘリはレイヴンたちの元へたどり着くだろう。
ヘリが到着するまでの短い間にエアは疑問に思った事を声にしていた。
【レイヴン、一つ質問なのですが、最後のAC戦でまだ残弾に余裕はありましたよね?】
「うん、まだある」
【でしたら蹴とばす必要はありましたか?不用意な接近は危機を招くだけだと思ってますが】
「あー、そのこと」
そう言うとレイヴンは軽く耳の裏を照れくさそうに搔きながら答えた。
「弾薬、使い過ぎ、お金かかる。キックする、お金、要らない」
【要するに弾薬代の節約のためだったと?】
軽く頭を振りレイヴンは肯定する、傭兵稼業は常に命と弾丸と金の心配が付いて回る。
例え敵機体を多く破壊したところで消費した弾薬が多ければその分手取りは少なくなる、だからこそ彼らは最低一つは接近戦用の火器を着けるのだ。
レイヴンもまた片腕にパイルバンカーを付けているがこれもまたそう言う事である
【そうですか、傭兵稼業も大変なんですね】
「うん、たいへん。でも、今回の仕事、お金、多い」
【えぇ、確認しています】
今回は大豊からの依頼ではあるがなんと30万もの支払いであり、弾薬代を差し引いてもかなりの金額がレイヴンの手元に来るだろう。
それを使い傭兵たちはACを強化していく、だが彼らにはそれしか使い道が無いという事の証左でもあるが。
ヘリに載せられて基地に戻ってからエアは義体に意識を映しながら少しだけ物思いに耽っていた。
(レイヴンは戦う理由を人生を買い戻すためと言ってましたね……)
その過去をエアは何も知らないが少なくとも強化人間になったからにはどうあれまともな経緯ではないだろう。
(私もその一助になれたらいいのですが……)
今のエアに出来ることと言えばレイヴンが人間らしい生活を送れるよう料理を振舞ったり、作戦に対して効率のいいアセンブルの提案、戦闘中の敵機体の解析など、どれも「傭兵としての」レイヴンを支援することしか出来ていない、だからこそエアは歯痒い思いを抱えていた。
(何かいい方法でも無いのでしょうか?)
胸の奥で煙が湧くような気持ちを抱えたまま、エアは廊下を歩いていると反対側から妙に渋い顔をしたウォルターがやってきた。
「ウォルター、何か悩みでもあったんですか?」
「あぁ、エアか。別に気にするほどの事ではないが」
「あなたがそんな顔をしているとレイヴンが悲しみます、悩みがあるのなら私が代わりに聞きますが?」
エアは少しむっとした表情を見せながらウォルターに語り掛ける。
そこには自分よりも長く共に居て、信頼を寄せられてるウォルターへの嫉妬もあったがレイヴンが悲しむのが嫌なのはエアもまた同じなのだ。
「……次の依頼の事だ、大豊からなんだがな」
観念したのかウォルターは手元のタブレットを操作し依頼文をエアに見せる。
「依頼内容:企業間合同コンペの警護及び新型ACの稼働テストですか?レイヴンに向いている依頼だと思いますが」
「あぁ、だが解せないのはこの部分だ」
ウォルターはタブレットをタップし顔をしかめた部分を拡大した。
「なお、受諾の際には大豊娘娘の衣服を着用しての参加となります?」
「要はマスコット扱いという訳だ、621の腕を知っているとはいえ舐められたものだな」
だがエアの目はタブレットのある場所に釘付けとなっていた。
そこには依頼料として前金で10万、依頼が完遂されれば追加で30万という破格の依頼料が示されていたからだ。
「……それで、この依頼はどうするつもりですか?」
「無論見送る。621はマスコットではない」
「でしたら、私がこの依頼を受けても構いませんか?」
突然のエアの発言にウォルターは目を丸くさせた。
「どういうつもりだ?」
「レイヴンには大金が必要なのですよね?でしたら私も力になれます」
「その必要はない、依頼を受けたところでまたその手の依頼が来るだけだ」
「ですが、私もレイヴンの力になりたいんです……」
もしこの義体に血が通うのならきっと皮膚が裂けるだろう握力でエアは拳を握っていた。
「レイヴンに普通の人生を取り戻してほしい、その一点で私とウォルターの目的は同じはずです」
それを切り出された途端ウォルターもまた唸る。
確かに彼の目から見てもこの依頼料は破格だ、それにもし仮にならず者が来てもレイヴンの腕なら容易く蹴散らすことはできるだろう。
しばしの逡巡のすえ、重々しくウォルターが口を開く。
「本当にやる気なんだな?エア」
「はい、レイヴンの為なら」
機械に、ましてや義体に意思など宿らないはずだがそれでもウォルターは力強い返答に何かを感じた。
「なら受けよう、その代わり準備は大変だぞ」
その言葉と共にエアの表情が花開き、その場で自分の体を抱える程興奮していた。
「ウォルター、貴方に感謝を。ありがとうございます」
「うかれるのはまだ早い、一度受けた仕事はしっかりと完遂してもらうぞ」
そう残してウォルターはその場を後にするのだった。
その晩、レイヴンもエアも寝入った時間にウォルターはモニター越しに作業をしていた。
その内容はこれから届くだろうエアの衣装と前金で人工皮脂の注文、そして旧友への通話だった。
「どうだい最近は?」
「621ならゆっくり寝ている、仕事に差し障ることはない」
「アンタのことだよ、人の事言えた義理かい?」
「…………睡眠時間は確保している」
モニターの向こうから特大のため息が聞こえてくる。
こんなのはモニターの向こうの笑い話を求める灰被り、「シンダー・カーラ」でも笑い飛ばせないしけた話だった。
「それにしても珍しいじゃないか、あんたが技研の義体を手元に置いてるなんて」
「621が必要としていたからな、頼みごとをするのは珍しいと思ったが」
「その上今度は人工皮脂の注文たぁ、なに考えてんだい?」
カーラが訝しむのもおかしくはない、故あって長い事連絡はしているがいずれも今までのウォルター像からは外れている。
自分の子飼いを大事にするのは変わらないがそんなものを注文するような事は無かったはずだ。
「今はまだ話せない、確信がないからな」
「へぇそうかい、あんたも隠し事ばっかりだね」
呆れ半分、興味半分ながらカーラは会話を続けるがその声が少しだけ真剣な物に変わる。
「けど用心しときなウォルター、コヨーテスの奴らまだ生きてやがった」
コヨーテス、かつてこのルビコンの地でならず者|《ドーザー》として暴れまわり、惑星封鎖機構が介入してからはその力を目当てに寝返ったコウモリ達。
頭目は潰され基地にもきっちりとミサイルを叩き込んだにもかかわらず未だに活動を続けているみたいだった。
「奴らは金になるものや新技術を狙ってくるのさ、ビジターにもそれとなく言ってやんな」
「あぁ伝えておく」
「んじゃ、アタシもそろそろ寝るとするか」
それだけ言うとカーラは通信を終わらせ再びウォルターの部屋にはモニターの微かな駆動音しか聞こえなくなった。
「……やはりこの依頼は受けるべきではなかったかもしれんな」
今更キャンセルするには用意が整いすぎてしまった、となればもう行くしかないだろう。
予めカーラからその情報が聞けただけでも幸運と判断してウォルターは次の方針を考えるのだった。
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