小説 オーズ Anything Goes! 18
復活のコアメダルの続きを(勝手に)描いた2次創作です。あくまで続編であることをご理解下さい
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2021年8月7日 聖都大学附属病院
誰かの話し声が、ずっと聞こえる。聞き馴染みのある懐かしい声。この声は確か…
『おい、映司。さっさと起きろ』
俺は長い眠りから目を覚ました。意識を取り戻した瞬間、身体に激痛が走る。そうだ、俺はあの時、アンクを庇って…
「っ、たた…此処は、一体…」
「オーズ!!!タケル、先生達呼んできて!!」
「分かった!」
俺の斜め前から大きな声が聞こえた。見覚えのある顔だった
「ミハル、くん…?」
「うん!ねえ、アンク!オーズが目を覚ましたよ!」
ミハルくんが声を掛けた先には、もう一つのベッドがあった。そしてそこに居たのは、ミハルくんの言葉通り、アンクだった
「映司、ようやく目を覚ましたか。お前のせいで俺は散々な目に遭った。その癖、5日間も呑気に寝ているとは、やっぱりお前はとんだ馬鹿だな」
「アンクだって3日は寝てただろ!それに、オーズが居なきゃ、アンクだって今頃どうなってたか」
俺のせいでアンクが?それに俺もアンクもそんなに長い間意識を失うほどの重症を?駄目だ。アンクを庇った後の事を全く思い出せない
「ミハルくん、アンク。俺何も覚えてなくて…何があったのか教えてくれる…?」
「その話を聞く必要はねぇよ、火野」
「お久しぶりです。映司さん。目が覚めて本当に良かった」
そういって病室に入ってきたのは伊達さんと、かつて一緒に戦った永夢くんだった
「あの、伊達さん。俺とアンクに何が?」
俺が伊達さんに質問すると、伊達さんは俺のベッドに近付きながら静かに口を開いた
「お前、何で俺や後藤ちゃんを頼らなかった。約束したよな?クスクシエで。アンコと戦うにしても、何するにしても、これからは俺や後藤ちゃんにも助けて貰うって」
「それは…」
「でも、結局一人で突っ込んでるじゃねぇか。俺はな、そういうのが危なっかしいから辞めろって、10年前から言ってんだよ!分かってんのか!火野!!」
俺は伊達さんに叱られた。全くもって伊達さんの言う通りだ。俺は言葉が出なかった
「ちょ、伊達さん!落ち着いて下さい!映司さんはまだ目を覚ましたばかりなんですから、あまり刺激しないで…」
「伊達の言う通りだ。誰かが危険な時、映司は何も考えずに足を動かしてそいつに駆け寄り、自分の身を犠牲にそいつを守ろうとする」
アンクの方を見ると、アンクは俺を酷く睨んでいた
「湊がポセイドンに支配されていた時も暴走を止めるために確証もなく突っ込んだ。人造グリードが塔から落下した時も一緒になって飛び降りた。元の世界のお前はガキを守るために、そしてお前は俺を守るために身代わりになった。映司、お前の本質は何も変わっていない。昔から変わらずただの馬鹿だ」
今のアンクの言葉で色んな過去が繋がった。10年前のあの日、俺の前に現れたアンクは、今目の前にいるアンクだ
でも何故4年前の話を、別世界から来たアンクが知っているんだろうか。ただどちらにせよ、俺がいつか来ると思っていた明日は、見せ掛けの希望だったんだ
つまり、この世界に居たアンクを、あの割れたコアメダルを元に戻す方法は、やっぱり…
「まあいい。火野、俺は後藤ちゃんや比奈ちゃん達に、火野が目を覚ましたって連絡をしてくる。とりあえず1週間は安静にしとけ」
そう言って伊達さんは病室を出て行った。後藤さんにも合わせる顔がない…
「とにかく、まずは命があって本当に良かった。アンクさんも映司さんも、助かったのは永夢先生達のお陰です」
「僕は飛彩さんや伊達さんのサポートをしただけだから。…映司さん、伊達さん怒ってましたけど、本当は凄く心配してたんです。あの時伊達さんが応急処置をしていなければ、いくら飛彩さんの腕があったとしても、救えていなかったと思います」
あの時、そんな事態になっていたとは…後で皆が来た時に頭を下げて謝らなきゃ
「先生、タケル。今はオーズとアンクの二人にしてあげませんか?きっと二人で話したいこともたくさんあるはずです」
「そうだね、どっちにしろ俺はビルドに連絡しなきゃだし。じゃあ映司さんまた後で」
「俺も翔太郎さん達に連絡しなきゃ。アンクさん、身体まだ動かさないようにね」
そういって全員が病室を出ていき、広い病室の中には俺とアンクの二人になった。暫くの間、無言の時間が続いた。だけど、意外と悪い気はしなかった
「なあ、アンク。お前はこれからどうするんだ?」
「俺はこの身体が治り次第、元の世界に帰る」
きっとそう言うだろうなと思った。だが目の前にいるアンクが元の世界に帰れば、俺はきっとこの先アンクと会うことはないだろう
だからお前と俺がいる明日は絶対に来ない。この世界で生きて、そして死んでいったアンクと出逢える明日は…だったらせめて、目の前にいるアンクを…
「折角逢えたんだ。もう少しゆっくりしていけば…」
「俺がこっちの世界に居る所為で、各地で異変が多発している。普段の俺なら目的を果たすまでは自分の意思を貫いているだろうが、気が変わった。俺の目的は湊達、別の奴らに託す。映司、お前の力は必要ない」
アンクがこんなことを言うのは恐らく、今俺がコアメダルを持ち合わせていないのが原因だろう。だけど皆が戦っているのに、それを黙って見ているだけだなんて俺にはできない
「俺も戦う。だからアンク、また力を貸してくれ。4年前の、あの時のように」
「変身も出来ない癖によく言う。さっきも言ったが、お前は命を軽視しすぎだ。映司、お前は残された側の事を考えたことがあるのか?」
そんなのあるに決まってる。それにその言葉はアンクには言われたくなかった
「じゃあ逆に聞くよ。アンクは最後の戦いがあった後、アンクに取り残された俺の気持ちを考えた事があるのか?」
「あのな、俺はグリードだ。コアさえあれば幾度と復活できる。だから現にお前は俺を復活させる、つまり俺のコアを戻す為に、10年旅をしていたんじゃねぇのか?」
「そうだよ。だけど10年で進展は全く無かった。あったとすれば、4年前のあの日だけ。だから俺はあの時、必死になって腕を伸ばしたんだ。命懸けで!」
俺がアンクに自分の10年分の想いを伝えると、アンクは不敵にも笑い出した
「っは、じゃあ映司、お前。あの時何も起きなくて、落下死してたらどうすんだ。お前は、人間なんだよ。人間ってのは命を失えば、もう元には戻らない。俺と同じく復活させる方法なんて、無ぇんだよ!」
「アンク…」
「それでもお前は俺に取り残されたお前と、お前に取り残された俺が、同じ気持ちを味わったとでも言うのか?なぁ、おい。お前には多少なりとも希望があったかもしれねぇが、こっちには何一つ希望なんて無かったんだぞ!」
今のアンクの言葉で、アンクから直接聞いたわけでは無いにしても、向こうの世界の俺がどんな事をしたのかが想像できた。きっと向こうの世界の俺は誰かを守って…
「その調子じゃ、世界中の人達と手を繋ぐだなんて夢のまた夢だな。お前が死んだら折角繋いだ手がどうなるか、取り残された奴らがどう思うのか、もう少し考えてから行動しろ」
「ごめん、アンク。俺…」
俺がアンクに謝ろうとした瞬間、病室の中に一人の女性が入ってきた
入って来たのはそう、比奈ちゃんだった。伊達さんが声を掛けて、きっとお店も抜けて来たんだろう。比奈ちゃんは俺を見るなりベッドへと駆け寄り、俺を抱きしめた
「映司くん!!目が覚めたんだ。良かった…映司くんもアンクも、二人とも無事で本当に良かった…」
「比奈ちゃん、心配掛けてごめんね。比奈ちゃんが今ここに居るって事はきっとお店も抜けて来てくれてるんだろうし、多くの人に迷惑を…本当なんて謝ればいいか…」
比奈ちゃんが俺の胸に顔を埋め体を震わせながら、首を横に振る。アンクがさっき言っていた、残された方の気持ち。比奈ちゃんだって、きっとそれを想像し、多少なりとも覚悟していたに違いない
確かに俺は目の前で困っている誰かを守りたいと思うと、自然と体が動いてしまう癖がある。オーズの力を得た事で俺は誰かを守る力は手に入れた
だけどふとした瞬間に、思い出してしまうんだ。村で一番最初に仲良くなった、あの子の顔が。あの子を救えなかった時の、あの絶望感が
だから俺はたくさんの人と手を繋いで、その輪を世界中に広げて行きたいと思いながらも、いざそういう局面に出会すと、自分の身を犠牲にしてしまう
だけど今目の前で、比奈ちゃんは泣いている。もうこんな風に俺の大切な人を、手を繋いだ誰かを悲しませたくない。でもだからと言って、目の前にいる困っている誰かの命は絶対に見捨てたくない
だからこその仲間なんだ。アンクは勿論、後藤さんや伊達さん、ミハルくん。自分の手が届かない範囲では彼らに頼ったっていいんだ。だけどもし皆の手も届かない所で、誰かが危険に晒されたら、誰がその人を救うんだろう
そんなことを考えていると、涙を拭いた比奈ちゃんが笑顔で口を開いた
「でも、こうやって3人で居ると、何だか昔を思い出すね。また10年前みたいに、こうやって3人で時間を過ごせるの、私嬉しい」
そういって比奈ちゃんは二つのベッドの間に立ち、右手で俺の、左手でアンクの手を握った。最後の戦いの前夜の、あの日のように
「俺もすっごく嬉しいよ、比奈ちゃん。こんな時は何だかアイスが食べたくなるね」
「っは、俺が言うのもあれだが、5日間寝てた奴が最初に食う飯がアイスとか、お前は本っ当に馬鹿だな」
「もうアンク!そんな喧嘩吹っかけるようなこと言わないで!折角3人の時間が出来たのに!!…でもちゃんとした物食べて、体もしっかり休めて、早く元気になってね、映司くん」
心配する比奈ちゃんに俺は頷いた。それから俺達は3人でたくさん話をした。比奈ちゃんが言っていたようにずっとこの時間が続けばいいのにと、そう思った
それから1週間後
俺の身体は余裕で動ける程まで回復し、映司の身体もほとんど回復していた。目が覚めたあの日から今日まで約10日間、色んな事を悩み考えて来たが、総じて俺は元の世界に戻ったほうがいいと俺は判断した
だが帰りたいにも、桐生戦兎にバースドライバーXを預けている以上、元の世界に戻る事はできない。俺は今日奴が病室に現れるまで、奴が此処に来るのをずっと待っていた
「お、アンク。元気そうだな」
そう言って病室の中に桐生戦兎が入ってくるや否や、俺はベッドから飛び降り、奴の胸ぐらを掴んだ
「お前、よくも面倒なことをしてくれたな。ドライバーさえ手元にあれば、俺はすぐにでも元の世界に帰れていたと言うのに。さあ、早くドライバーを出せ」
「おいおい、落ち着けって。悪かったよ、4日前に日本に帰ってはいたんだが、研究を続けてて、中々顔出せなくてさ。ほら、ドライバーと、こっちは預かっていたコアメダルだ」
俺が5枚のコアメダルを受け取ると、それらはエネルギーを取り戻した。恐らく俺が暴走した時、コアの力を一気に引き出したことで、俺の身体にコアそのもののエネルギーが残っていたのだろう
俺はコアメダルを全て体内に取り込み、完全体の力を取り戻した。だが湊達に話した通り、俺は満足するどころか苦しさを感じていた。こいつがある限り、俺はグリードであることを思い知らされるからだ
「そんで、アンタが仮面ライダーオーズ、火野映司だな。4年前、万丈と一緒に世話になった仮面ライダービルド、桐生戦兎だ」
「ああ、あの時の!」
「そう。実はオーズドライバーも預かっていたんだ。だからこれは返す。一応、研究によってアップデートをしてあるんだが、研究仲間はあと1つ何か要素が足りない気がすると言っていた。だからそれが分かるまで、無闇に変身するのは避けてくれ」
「分かった。約束する」
そういって奴はオーズドライバーを映司に返した。まあどちらにせよ、今映司はコアを持っていないからな。関係ないだろう
よし。バースドライバーXも手に入れた。元エタニティメダルもある程度のエネルギーは充填された。退院できるほど身体も回復した。となれば、俺がやる事は一つだ
「それじゃあ、俺は元の世界に帰る」
「アンク、此処じゃ他の人にも迷惑が掛かる。ちゃんと退院の手続きをして、人目の付かない所に移動してからそうしてくれないか」
桐生戦兎の面倒な頼みを渋々聞き入れた俺は、伊達付き添いの元退院の手続きを済ませ、映司と共に約2週間世話になったこの病院を後にした
そして俺は映司や伊達と共に桐生戦兎にとある場所へと連れられた。その場所が何処かはすぐに分かった
「おーい、アンク!オーズ!退院おめでとう!!」
そう、ここは児玉埠頭。今目の前で手を振っている湊と俺が2011年に通った虚無があった場所だ
その場所にはデンライナーが停まっており、見覚えのある奴らが全員揃っていた
「映司さん!本当に生きてて良かったッス!」
「オーズ!無事だったんだな!」
「信じてたぜ、映司…!」
「弦太朗くん。幸太郎。翔太郎さん…」
「伊達さん、火野とアンクの体はどうでした?」
「鏡ちゃんが、問題ないってよ」
「飛彩さんが言うなら間違いないですね」
「鎧武、そういえば泊を見なかったか?」
「いや、俺は見てねぇけど…」
「照井竜は何か聞いているかい?」
「泊刑事なら、緊急で用ができたと聞いている」
「おい、戦兎!ちゃんと渡せたのか〜?」
「見りゃ分かるだろ。アクア、遅くなってすまない」
「全然。俺達もついさっき集まった所だったし」
「アンクさん、たくさん悩んで、考えましたか?」
「ああ、色々考えたが、俺は帰る」
「トサカが居なくなると思うと、清々するぜ」
各々が話している中で、更にその場所へと一台の車が停まった。里中の車から降りて来たのは、信吾達だった
「アンク、もう行くのか?」
「ああ、少しの間だったが世話になったな。信吾、お前が居なければ俺は今生きてさえ居ないだろう」
「アンクちゃん、もしまた逢えたら次はたくさんのアイス食べて行ってね。それまでうちの店、続けておくから」
知世子の奴に関してはどっちの世界でも同じことを言ってるな。俺が鼻で笑うと、比奈の奴が小さく呟いた
「また絶対に逢えるよね?」
「っは、どうだかな」
そう言うと俺はバースドライバーXを装着した。話し合いをしていた奴らの声が一斉に止まる
この世界ともおさらば、か…少し名残惜しいが、この世界の為だ
「最後にお前らに質問だ。映司の事をお前らに託すとは言ったが、肝心な事を聞き忘れていた…お前らは…何のために戦ってるんだ?」
「皆の大切な時間を守るために!」
「大好きな街の平和を守るために!」
「大切な俺のダチを全員守るために!」
「人々を絶望から救うために!」
「誰一人見捨てないために!」
「人々の思いを未来に繋ぐために!」
「皆の笑顔を取り戻すために!」
「愛と平和のために!」
っは、そうか。これなら大丈夫そうだな。こいつらに映司を任せれば、映司が馬鹿な真似をして、命を投げ出すことを心配する必要もない。俺がそう思っていると、湊も俺に向かって口を開いた
「オーズの運命を取り戻すために!」
「ああ、頼んだぞ。湊」
俺の言葉に湊が頷くと、映司が俺に近づく
「アンク。何から何まで有難う。アンクのお陰で大切な事に気付かされた。さっきアンクが言ってくれたみたいに、俺はここにいる皆が助けてくれるから大丈夫だ。俺は信じてるよ。また逢えるって」
「っは、お前みたいな馬鹿と会うのは、これが最後で十分だ」
そう言って俺はバースドライバーXにコアメダルを1枚ずつセットした。そして最後の1枚をセットし、俺はダイヤルを回した
すると目の前に虚無が広がった。これを見るのも久しぶりな気がする。此処を通れば、俺は元の世界に戻れる。そう、一歩足を進めた時のことだった
「帰っちゃダメだ!アンク!!」
俺は進む脚を止めて振り返った。俺はその声の主を見た事が無かったが、ウィザードとゴーストが叫んだ
「泊!」
「泊さん!」
泊と呼ばれた男は俺の方へと近付いて告げた
「初対面なのに呼び捨てにしてすまない。アンク、君は元の世界には帰ってはいけない。絶対にだ」
「どういうことだ?」
「君が帰ることも含めて、敵の計画だったんだ。此処しばらく敵がほとんど姿を現さなかったのは、君が帰るのを待つため。君の暴走は敵にとっての唯一の不安要素。つまり君が居なければ、奴らは敵無し。その首謀者は…」
「危ない!!二人とも避けて!!!」
映司のその声を聞き、俺は泊という刑事を突き飛ばした。刹那、俺たちの立っていた場所に大きな攻撃が通った
「全く、避ける方向が違うじゃないか。早くその中に入ってくれないと、困るんだがね」
そこに立っていたのはあの時見た奴と同じ、恐竜グリードだった。その姿を見て後藤が声を上げる
「アンタ、何者だ!真木博士なのか!!」
「財団Xの人造グリードではなさそうだねえ」
「そのどちらでもない…」
恐竜グリードの正体を分析する緑の男に対し、泊という刑事は否定した
「敵の正体、その名前は…」
「お前、さっきからベラベラ喋りすぎだ。我が名は、恐竜グリード・ギル。そして…」
奴は自らグリード体から人間体へと姿を変え、衝撃の一言を放った
「久しいな、映司」
「っ…父さん……」
その正体は政治家であり、かつて映司を絶望の淵へと追いやった張本人。そう、映司の父親だった
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