恋の行き先。〈16〉
正月は福井県のお寺に初詣に出かけたついでに福井のあちこちを観て回った。
窓から家並みを見ながら、人の営みを想像するのが好きだ。
運転してくれる敦史には、時折オヤツを口に運んだり、音楽しりとりをしたり、眠くならないように気を配った。
海岸線では車を停めて日本海を眺めた。
車中泊では抱き合って眠った。
敦史の腕の筋肉のつき方も覚えてしまった。
庭に呼ぶ野鳥の餌台も作ってみた。
まだまだ改良の余地ありなのだけれど、三角屋根がとても感じ良くできたと思っている。
掛け流しの水場を作るのが課題。
失敗したり直してみたり、楽しい作業に二人とも夢中になった。
鳥が来てくれますように。
正月休みもわずかとなり、いよいよ敦史が関東へと引越す準備をすることになった。
ほとんどの着替えや必要な物は、箱に入れた。
車に充分積み込める量だ。
あとの大型家具は移転先で買うのだ。
あちらに早めに移動して荷物を整理したり、必要な物を買わないといけないのだが、敦史は中々行動に移さなかった。
それがどこか投げやりな感じがして、私は一生懸命にハッパをかけた。
敦史の元気のない様子を見ていると、私はいよいよ決心がついた。
私「私が一緒に行って住めるように片付けたり、買い物に行ったりするよ。」
敦史「ほんと?!」
何というわかりやすさ。
敦史「くれはが暮らしやすいようにもしておくんだよ、わかってる?」
私「はいはい。ク、クイーンベッドも買えたらいいね?」
敦史「クイーンベッドが来るまでは、ここのダブルの布団を持って行っておこう。あっちの家具屋にも行こうね。くれはがいつ来てもいいように準備しないとね。」
一緒に暮らす自信はなかったけれど、もしかしたら、時折滞在するかもしれない。
何よりも敦史を元気にして新しい職場に出発させないと。
とりあえず敦史は前向きになり、急いであっちで準備しようという事になった。
敦史「くれはが一緒に部屋をレイアウトしてくれたら、俺は本当にやる気が出る。突然切り離されるみたいで、どうすれば始められるかわからなくなってた。」
私「敦史は赤ちゃんじゃないでしょ。自分でできるのに。しょうがないなぁ。」
頭を撫ぜると、
敦史「赤ちゃんみたいなもんだから」と、私の左胸に触れながらキスした。
私の左乳房は右よりも小さい。
左乳房に良性腫瘍ができて、二度も手術した過去がある。
乳輪の周りを切って、腫瘍を取り出したから乳首は温存できていた。
ある日、乳房の事情を説明したついでに、
私「知り合いが、やはり同じ手術で乳房が小さくなってしまったのよ。
旦那さんが小さい胸の方を触るようにして、大きくしたの。刺激で大きくなるみたいよ。
でも過ぎたるは及ばざるが如し、小さい方が大きくなりすぎてしまったのよー。アハハ。」
笑い話しのつもりだったのだが、敦史はとても真面目に聞いていた。
その後の敦史は、私の左乳房を触れたりする時は、時間をかけるようになった。
残念ながらまだ結果は出ていないのだけれども。
敦史の荷物は積んだ。
私が車に乗り込むと敦史は安堵のため息をついた。
車は出発した。
つづく