シロガールテンイムホウ第三話
※くれえいじせんせいの連載が読めるのはnoteだけ! よいこのみんな、じゃんじゃんはげましのおたよりを送ろう!(雑文書き三十数年にして、とうとうこの台詞を自分から言ってしまった!)
第三話「『赤とんぼ』は死の子守歌」(前編)
鬼瓦元吉は朝起きてからこっち、一体どれくらいの時間、鏡の前に居座る気なのだろう。
色々な角度から自分の顔を念入りに観察する。最近急に増え始めたニキビが気になって仕方が無いのだ。
「またにニキビが増えてる。こんな顔じゃ白鷺さんに嫌われてしまうっ。でもこうなったのもみんな白鷺さんのせいだ。乳首の先とかパンティーの湿り気とか見せるだけ見せといて。これじゃあまるで蛇の生殺しだよ!」
「誰が後家殺しだって?」
眠たそうに、この家の主が洗面所に現れた。
「と、父ちゃん!」
姫神社の宮司、鬼瓦元吉の父親である鬼瓦さとしである。年間を通じて、ほとんど働いている父親の姿を見たことがない元吉であった。大抵の行事はしっかり者の母親がほとんど切り盛りし、ここぞ、というときだけ面倒くさそうに衣装を着けて、鈴や棒を振るっている父であった。
「まだ時間がかかるのか? 父さん歯を磨きたいんだが」
「父ちゃん、ニキビを治す洗顔クリーム、買ってくれよ。この家、古くさい石けんしか置いてないじゃないか」
元吉が泣きそうな顔で抗議する。
「馬鹿、洗顔クリームなんぞ使わずとも、オマエは神に仕える身ではないか。神水(しんすい)を使え」
「神水?」
「そうだ。外の井戸で汲んできて、それで顔を洗ってみろ。一発で治る。とっても御利益のある湧き水なのだ」
「ほんとかい?」
元吉は半信半疑である。
「神水は肌にいいだけじゃねぇ。飲めば身体の病気や体調も整えてくれる。血も綺麗にしてくれるし、身体の隅々まで、胃や腸まで綺麗にしてくれるんだ。試しにここを見てみろ」
「どこ?」
さとしは元吉に背中を見せて、自分の尻を指差した。顔を近付ける元吉。
「バフッ!」
「どうだ。屁も全然臭くないはずだ。神水を飲めば無臭になるのだ。分かったか。また後で来る」
さとしは放屁したまま立ち去ってしまったが、そこに残された臭いは卵の腐ったような、それこそ嗅いだ者に鬱病を誘発するくらいの酷い悪臭であった。確か家の敷地内には硫黄の温泉は湧き出ていないはずである。「何を食べ配合すればこんなふざけた臭いになるのか」という静かな怒りが、沸々と温泉の源泉のように、元吉の心の内で沸き上がってくる。
「胃や腸を綺麗にする神水だって? 父ちゃん嘘ばっかりじゃないか!」
※
先日、白鷺姫子に戦いを挑み、完膚無きまでに叩きのめされた、明石城に魅入られた女、子午線子。
姫子の通う高校の門の外から、姫子のクラスの窓を眺めている。恥ずかしそうに頬を赤らめながら。
「姫子さん…」
明石城の憑依能力である「明石大ダコ巽櫓縛り」を使い、白鷺姫子の身体をまさぐった子午線子。能力越しとはいえ、吸い付きのよい姫子の肌、柔らかく形の良い乳房、そして姫子の一番大切な場所の絶品な触感。
「攻めたのは私の方なのに、何故私の身体が火照る。女の私でさえここまで狂うのだ。私が男だったなら病みつきだろうな…」
もう一度、あの肌に触れたい。という切ない想いを秘め、子午線子はいつまでも姫子のクラスの窓ガラスを眺めている。
その淡い想いを断ち切る殺気。
「誰だ、貴様、この辺りの者ではないな」
振り返った子午線子が声をかけた先に立つ、この辺りでは見慣れないセーラー服を着た女子高生が一人。
「そういうオマエはなんだ。明石城の憑依者じゃないのか? フン、さては色恋に狂って血迷ったか。姫路城を守る気ででもいるのか?」
強い口調で子午線子を罵倒する。
「貴様は誰かと聞いている」
「私は龍野城に魅入られた女、揖保乃糸子(いぼのいとこ)」
揖保乃糸子の全身に城アーマーが可視化されていく。
「明石城は落城し成仏したが『天下統一』の資格が無くなるだけで、乱世が終わるまで能力は残る。姫子に危害を加える者は私が許さない」
「笑わせる。許さなければどうするというのだ」
「こうする。明石城奥義ッ、懸魚(げぎょ)クライシス!」
凄まじい火花と閃光が、高校の門の外で炸裂した。
※
「姫路の中心部から龍野城まで、頑張れば自転車でも行けないことはないぞ」
歴史の教師小幡先生は、ニコニコと白鷺姫子と鬼瓦元吉を前にして座っている。
「龍野は『播磨の小京都』と呼ばれていてね、風情のある古い町並みが残っているんだ。武家屋敷の名残も見られるぞ」
小幡先生は最近、二人が放課後にすすんで補習を受けにくるようになったので、すこぶる機嫌が良かった。
「そしてあっちの店で食べるソーメンが美味い。作り方が違うんだろうな。家で食べる喉越しと全然違うぞ」
先生恒例の地元グルメ話だ。
「五万石のお城は昭和に整備されてね、山の上の古城と、ふもとの城とセットになっているんだ。櫓や本丸御殿が復元されているんだぞ。そうだ、確か先生の車の中にプリントした写真帳があったな。ちょっと待っていなさい、見せてあげよう」
先生は頼んでもいないのに、自分からすすんでウキウキと教室から出て行ってしまった。
「別に先生の写真、特別に見たい、ってわけじゃないけどなぁ」
「そんな言い方するものじゃないわ。三木や明石のお城が攻めてきたんですもの。次は先生が行かれた龍野の番かもしれない」
「闘う前に敵のことを下調べしておかないとな」
ガタッ。
教室の前方の入り口で、人が倒れ込む音、咄嗟に身構える二人。
「ああっ、あなたは」
「し、し、子午線子っ! 性懲りも無く、また闘いを挑む気か?!」
鬼瓦元吉は数珠を握りしめたまま、ファイティングポーズを取る。
「鬼瓦くん、ちょっと待って。線子さん、なんだか様子がオカシイわ」
俯せに倒れてしまった子午線子をよく見ると、セーラー服が全体に焦げ付いているように見える。
「ひ、姫子さん、今、校門から出ちゃ駄目…」
息も絶え絶えに、子午線子は必死で迫り来る危機を告げようとしている。
「も、もしかしてオマエ、憑依者にやられたのか?」
「龍野に気をつけて、奴は…」
「次は龍野!」
痛みに耐えているのか、身体は微かに震えていた。セーラー服からは煙も出ている。
「なんだかキナ臭ぇにおいがこっちにまで漂ってきたぞ」
「線子さん、あなた、龍野城とやりあったの?」
「歯が立たなかったわ。私の技が…」
鬼瓦元吉は驚きの色を隠せなかった。間近で見た明石城の究極奥義『懸魚クライシス』は相当な破壊力を持つ技であった。今度の敵は更にそれを上回るということなのか?
「ケガをしているようね。とにかく先に手当をしましょう」
白鷺姫子が子午線子の身体を俯せから仰向けに返す。
「ああっ!」
二人が声を上げた先には、不自然にこんもりと盛り上がった子午線子のセーラー服の胸元。G、いやHカップはあるのではないか?
「こ、これはもしかしたら…」
鬼瓦元吉は、学生カバンの中から慌てて古文書を引っ張り出す。
「間違いない、龍野城の『鶏籠山(けいろうさん)固め』だ!」
兵庫県、龍野城の後ろにそびえる、遠目でも一際目立つユーモラスな形をした山。鶏籠とはニワトリを伏せておくカゴのことであり、釣り鐘に似た大きな竹製のカゴのことを言う。その釣り鐘型に似ていることから付けられた名称である。
「見ちゃ駄目よ。鬼瓦くんっ」
「分かった」
返事をしたはいいが、顔を隠した元吉の両手は隙間だらけであった。
「な、なんてことを…」
白鷺姫子が剥ぎ取った子午線子のセーラー服の中は、両方の乳房の上に被せられた、白いカゴ、材質は揖保乃糸だ。荒く編まれた竹ひごの代わりに揖保乃糸で編まれたお椀型の釣り鐘が二つ、両方の乳房に張り付いていた。
そしてお椀の内側の天井から垂れ落ちる、一本の素麺の糸は、幾十にも線子の乳頭に絡みついている。
身体を動かすたびに、息をするたびに、その乳首に絡みついた糸が変則に動き、得も言われぬ快感を与えているのだろう。
今の子午線子は、まさに『全身性感帯』であった。
「しっかりして」
「ああっ」
二の腕を掴んだだけで、絶頂を迎える寸前のような切ない声を出す子午線子。白鷺姫子は自分のカーディガンを前から羽織らせ、線子の乳房を隠す。
「ここから連れ出しましょう。先生に見られたら大変」
「そ、そうだな」
二人で支えながら、少しの刺激でも快楽の吐息を真横で漏らされる元吉は、股間が自然と硬くなっていくの感じていた。
「二人ともお待たせー。あらら?」
入れ違いで教室に入る小幡先生。手には三脚を立て、城をバックに一人でピースサインをする(しかも全ての写真でズボンにシャツ・イン)ご自慢の写真が握られたままである。
真ん中の子午線子を両側から支え、体育館の裏を抜けて裏門から脱出しようとする三人。
「逃げられると思っているの?」
凄まじい殺気を伴い、壁の上に立ち三人を睨み付ける不気味な女。
「私は龍野城に魅入られた女、揖保乃糸子」
手負いの者を庇いながら対峙する白鷺姫子、果たして勝機はあるのか?
〜つづく〜
次回予告
「打ってみなさいよ、あなたの『カの櫓石落とし』を」
技を誘う揖保乃糸子、一体どんな罠が待ち受けているというのか。二人が闘う隙を見て、マクロレンズで絞まりゆく線子の乳首を盗撮する鬼瓦元吉は、また助言のタイミングを逃してしまうのか?
次回シロガールテンイムホウ
「『赤とんぼ』は死の子守歌」(後編)
にどうぞご期待ください。
※
お便りのコーナーです。全国千人のシロガールテンイムホウファンのみんなから厳選して二通を選んだぞ(よいこのみんなは『二通しか来なかった』という大人の推測はしない)
Sさんより
『今後、その城にまつわる鎧や刀剣を絡めるのはどうでしょう。「召還!へしきり」みたいな。城だけでなく刀剣マニアにもアピールできるのでは?』
Sさんどうもありがとう。いいね、いいアイデアです。でも私は刀剣の知識がないので、勉強しないとなー。
続いては平成の三成さんより
『金平さんのカットがいい感じです。ですがもう少し巨乳の方が良いのでは…』
平成の三成さん、どうもありがとう。これは即金平に伝えました。私も同じ思いだったからです。
以上お便りのコーナーでした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?