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Gift 03 〜 私たちを動かす「形のないもの」は何から生まれるのか?
前章の問い「私が何をすれば、ひとつのロールは完了するか?」をイメージすると、真っ先に身体の動きが思い浮かぶのは、私たちが映像で記憶をたどるからだと思います。当然、そこには「形のないもの」は写っていません。おそらく、仕事の日報や週報にも「目に見えないもの」は書かないでしょう。
けれども、間違いなく私たちはカメラでは撮れないものを使っています。もう一度、作家が人物を描写するように「そのとき私は何を感じているか?」まで踏み込んで「来客に一杯の飲み物を出す」というロールをたどってみます。
リビングにはパートナーの両親がいます。それほど頻繁には会わない関係なら、少しよそよそしい感じでかしこまっているかもしれません。だとしたら、まずは彼らの様子を気にかけながら「この一杯が義父母の緊張を解きほぐして、くつろぐきっかけになってほしい!」と考えるでしょう。
じつは動き出す前にも、形のない「優しさ」や「思いやり」や「共感」を発揮しているということです。
そのような想いを抱いてキッチンに戻ったら、さっそく「どのグラスにしようか?」をかなり真剣に吟味します。大切な来客に、いつも自分たちが使っているものは出さないでしょう。
食器棚を開け、両親の顔を思い浮かべながら、彼らが喜びそうなデザインを選びます。グラスを照明にあてて、指紋や汚れがついていれば乾いたフキンできれいに拭き取ります。
この一連の流れには、目に見えない「美意識」や「相手を気持ちよくしたい想い」が用いられています。
もちろん、お茶をどのくらい注ぐかにもこだわります。飲みやすいように、多すぎず少なすぎず、2人の量を揃えることも忘れずに、グラスの七分めか八分めあたりをきっちり狙うでしょう。
誰もがあたりまえにやることに見えますが、これを成し遂げるには「ていねいさ」や「快適さを提供したい想い」や「見栄えをよくしたい想い」が欠かせません。
ここまでやり終えたところで、先の手順には挙がらなかった「コースターを敷く」を思いつきました。あらためてお茶の入ったグラスの雰囲気を確認します。
ジャスミンティーなら黄色、煎茶なら緑色、麦茶やルイボスティーなら濃い茶色をしています。それぞれの色味と和洋中などのお茶の産地も考慮して、目の前の一杯に最適なコースターを選ぶでしょう。
ここでは「創意」や「工夫」に「色を組み合わせるセンス」と「演出を加えたい想い」も登場しています。
もっとリアルに突き詰めていくと、最初に使うのは「相手に何が飲みたいかをたずねる」という究極の「もてなす気持ち」だとわかります。その注文が温かいお茶やコーヒーなら、さらに多くの目に見えないものを総動員して「美味しい一杯を淹れる」という新たなロールに挑むでしょう。
こうして掘り下げていくと、前章で挙げた「行動」はどれも「形のないもの」に喚起されて為されているように見えないでしょうか。因果で表すと「形のないもの」が原因で「行動」が結果にあたります。主従に置き換えるなら「形のないもの」が主で「行動」が従ということです。
だとすると、冒頭の問い「何をすればひとつのロールは完了するか?」の答えは「手を動かせば」よりも、
「形のないものを発揮すれば完了する!」
のほうが的を射ていると思うのです。
では、その「形のないもの」とは何でしょう?
目に見えないものの正体について頭だけで考えようとしても、なかなか焦点が定まりません。視覚をとおして答えをイメージできるように、ここまで私なりに表現してきた言葉をすべて挙げてみます。
「優しさ」「思いやり」「共感」「美意識」「相手を気持ちよくしたい想い」「ていねいさ」「快適さを提供したい想い」「見栄えをよくしたい想い」「創意」「工夫」「色を組み合わせるセンス」「演出を加えたい想い」「もてなす気持ち」
何よりも「来客に一杯の飲み物を出す」というあまり複雑ではないロールに、これほど多くの「形のないもの」を繰り出している事実に驚かされます。しかも、今回の例はかなり無粋な私の経験に基づいています。人によってはもっときめ細かく、私には思いつかない何かをいくつも発揮しているでしょう。
「想い」や「気持ち」という語句から、どれも私たちの「心の動き」であることは容易に予想できます。「つまり、形のないものとは心である!」という結論もわるくありません。
でもここで、私の強い興味と知りたい想いがもうひとつの問いを投げかけてくるのです。
「その心は何から生まれる?」
照れくささや、抗いたくなる感じを乗り越えて、正直に先の言葉に向き合ってみると、私たちがよく知っている一語が浮かんできます。それは、
「愛」
ではないでしょうか。
今回のロールに登場する「形のないもの」は、けっして特別でも高尚でもありません。誰もが「これくらいなら使ったことがある」と言えるふつうの想いであるはずです。では、まわりにいる人や自分の置かれた状況を愛せないときでも、同じように「優しさ」や「思いやり」や「もてなす気持ち」を発揮できるでしょうか。
それが無理だとしたら「形のないもの」の正体を「愛」と捉えることは、けっして大げさでも的外れでもないと思います。
「私が何をすれば、ひとつのロールは完了するか?」の問いから始まった探索は、いくつかの段階を経てようやく、
「私が愛を発揮すれば、ひとつのロールは完了する!」
という結論にたどり着きました。
さらに、前章で書いたとおり、この答えは「どうすれば、あらゆることをいい感じで手がけられるか?」と「人生をしあわせなものにするにはどうすればいいか?」の2つの問いを解く鍵になります。
深く考えるまでもなく、これまでの流れに沿えば自然と次の一文に着地します。
「いつでも、どのような場面でも、私が愛を使えればいい!」
もし、これで誰もが納得でき、すぐにでも実践できると感じられれば、わずか三章をもって本書はその役割を終えられます。でも、そのようなことは絶対に起こらないと私も自覚しています。
もしかしたら、あなたもこの結論に強い抵抗を覚えているかもしれません。それどころか「形のないもの」の話が始まったあたりから、ずっとザラついていたとしてもおかしくありません。それほど、私たちはあらゆる場面で、
「愛だけは絶対に使いたくない!」
と感じているのです。
(次章に続く……)
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