エシカルシンポジウム【イベントレポート】
2022年11月6日(日)、エス・バード(飯田市座光寺)にて開催された「エシカルシンポジウム」のレポートをお届けします。
飯田市の「エシカルシンポジウム」は、2019年の初開催以来、毎年継続されており今年で4回目。今回は、11月5日、6日に行われた「南信州環境メッセ」内の特別プログラムとして実施されました。
テーマは「今さら聞けないエシカルなくらし」。1部は講演会、2部はパネルディスカッション、3部は高校生による「エシカル度チェック」の3部制です。
●第1部 講演会「みんなが笑顔になるエシカルな暮らし」
講師:信州大学特任教授 中島恵理さん
講師としてお招きしたのは、元長野県副知事の中島恵理さんです。中島さんは1995年に環境省(旧環境庁)に入庁後、環境行政に幅広く携わってきました。その後、結婚を機に長野県富士見町に移住。2015年から4年間副知事を務め、環境省脱炭素科イノベーション研究調査室長などを歴任しました。現在は信州大学特任教授を務めながら富士見町でSDGsのまちづくりに取り組んでいます。今回はご都合によりオンラインでの登壇となりました。
まずは今回のテーマに則り「エシカル」の言葉の語源や「長野県版エシカル消費」についてわかりやすく解説。活動を進める理由や具体的な消費例についてもご説明いただきました。
世界的に問題になっている「温室効果ガスの排出量」については、電気、ガス、石油など家庭で直接使われている「家庭部門」は全体の15.9%と発表されています。しかし、住居、移動、食、さらに商品の製造における原材料の調達、加工、販売、使用、廃棄まで一連の流れを含めれば、生活に起因するものが全体の60%を占めるといいます。
中島さん:私たちが積極的にどういうものを選ぶかということが生産者の応援につながりますし、環境負荷の少ないものをできる限り選択することで温室効果ガスを減らせる可能性もある。日々行う私たちの選択は非常に重要なものなのです。
また「エシカルな暮らし」という面では、自らが20年前から実践している八ヶ岳山麓での自給自足の暮らしを紹介。自然素材を使ったセルフビルドの家づくりや、ご主人が取り組む有機農業と食の自給、太陽光による発電やペチカによる暖房など自然エネルギーを取り入れた暮らしについて写真と共にお話いただきました。自家製の麹を使った味噌作りや、害獣対策としての狩猟、そして命をいただくということ。子どもたちも畑仕事などを手伝いながら自然の中でのびのびと育つ姿が印象的です。
中島さん:自分たちがエシカルな選択をすることで、ゼロカーボンの生活ができます。冬もペチカのおかげで家中ぽかぽかと温かくて気持ちがいいんですよ。光熱費もほぼゼロで、気持ち良くて環境負荷も少ない。我慢したり、経済的に無理をして高いものを選ぶということではなく、自分たちの暮らしを豊かにしながら環境にも貢献できるエシカル消費が広がっていくといいなと思っています。
最後に、中島さんが富士見町で実践する「富士見まちづくりラボ」での取り組みや「暮らすroom'sプロジェクト」の紹介も行われました。
中島さん:私たちの毎日の選択が「持続可能な社会づくり」の応援につながります。飯田市にもすでにエシカルなショップやエシカルの暮らしの実践がたくさんありますから、自分たちの暮らしや消費生活の中で、できるところからエシカルな暮らしを始めていただければと思います。
という言葉で講演は締めくくられました。
●第2部 パネルディスカッション
【パネリスト】
木下 容子 さん (南信州プラスチックスマート推進協議会 会長)
宮田 和香 さん (下伊那農業高等学校アグリサービス科3年)
北林 郁子 さん (長野県県民文化部 くらし安全・消費生活課)
佐藤 健 さん (飯田市長)
【アドバイザー】
中島 恵理 さん
【コーディネーター】
森本 ひとみ さん(一般社団法人South-Heart代表理事)
年代も立場も異なる4名のパネリストが登壇。自己紹介も兼ね、それぞれの立場から実践している活動について発表した後、3つのテーマに基づいてパネルディスカッションが行われました。
テーマの一つ目は「海洋プラスチック問題」です。海に投棄されたプラスチックゴミや、それらが5mm以下の破片となった”マイクロプラスチック”が海洋生物の命を脅かし、生態系を崩しているこの問題は、今や地球規模の問題として深刻化しています。飯田市に海はありませんが、海洋へ流出するプラスチックの多くは陸域由来のものとも言われており、決して他人事ではありません。南信州プラスチックスマート推進協議会会長を務める木下さんから、南信州で行われているプラスチック削減の活動が紹介されました。
高校生の宮田さんは「私自身もマイボトルやマイバッグを持つなどの行動を心がけています。また下伊那農業高校でも放置竹林の整備をしながら、文化祭のアーチや装飾を竹で作るなどプラスチックを使わない取り組みを進めています」とコメント。木下さんからは「集会などでペットボトルなどを使用する機会があるのは仕方ないとしても、リサイクルにつながるようなゴミの分別をしっかり行う必要があります」という意見や、ゴミの減量、ものを簡単に捨てずに再利用するリユースの大切さにまで話が及びました。
二つ目のテーマは「地域食材の消費量を増やすには」です。宮田さんの通う下伊那農業高等学校では授業の一環として、傷などが原因で出荷できない地域食材を加工し、消費量を増やすことを目的とした料理コンテストが開かれています。今年のテーマは「りんご」。若い人にも食べやすい味わいで、りんごをたくさん食べてもらえるように「りんご入りのチーズタッカルビ」を考案したという宮田さんは「このように地域食材の消費量を増やす方法について皆さんはどう思われますか」と意見を求めました。
「私はいろいろな国の食べ物が好きなので、その国独特のスパイスをかけて、雰囲気を変えて食べています」と北林さん。このほかにも「野菜はできるだけ皮ごと食べる」「食べられない部分はスープの出汁にする」「飲食店でも気軽に地産地消のメニューを出してくれるようになればいい」「高校生のアイディアをお店で商品化してみては」など様々な意見が飛び交いました。
三つ目のテーマは「南信州でできるエシカルなこと」です。最初に北林さんから、長野県県民文化部くらし安全・消費生活課の取り組みとして、県が実施するエシカル推進活動(エシカル商品を表示するポップ、小学校への出張授業、テレビCMなど)や、飯田市でエシカルな活動に取り組んでいる企業やお店の紹介がありました。
自身が取り組んでいる「エシカルなこと」について、木下さんは「購入する時は地元のものをなるべく買うようにしています」とコメント。また、飯田市では佐藤市長の呼びかけもあり、宴席に出席する際、乾杯後にすぐお酌に回るのではなく「宴会開始後、15分間は着席してしっかり料理を食べ、終了前の15分間も再び着席し、しっかり食べて食べ残しを減らしましょう」という活動が以前から行われてきたといいます。
「コロナ禍により宴席も減っていますが、再開した折には食品ロスを減らすため、皆さんにもそうした試みを意識していただけたらと思います」と佐藤市長。また、高校生の宮田さんは「ものを購入する際に『本当に必要なのかな』としっかり考えてから買うようにしています。また友達にプレゼントをあげる際もビニールではなく紙袋で渡すように心がけています」など、年代を問わずすぐに実践できるエシカルな試みを話してくれました。
ディスカッションの最後に、アドバイザーの中島さんは
中島:いま、お話のあったようなことが一つでも二つでも実践されてさらに広がることで、飯田市から全国のモデルとなるようなエシカル消費やエシカルな暮らしが生まれることを期待しています。
とコメント。また、コーディネーターの森本さんも
森本:飯田市は「なにもない」と言われることもありますが、実は昔から自然とエシカルな行動をしている地域。エシカルを通じて、この地には目に見えない豊かな暮らしがあるのではないかと私はいつも感じていますし、みなさんが誇れる地域であればいいと思っています。
と話し、第二部が締め括られました。
●第3部 下伊那農業高校生による「あなたのエシカル度チェック」
第3部では下伊那農業高等学校の高校生4名が登壇。事前に参加者に配布された「エシカル度チェック」の用紙をのチェック項目を確認、解説しながらエシカル度を図りました。
チェック項目は全10問。「買い物をするときにマイバッグを持参している」「仕事や学校へ行くときに水筒を持参している」「冷蔵庫の中にゆとりがある」「箸やお皿などにプラスチック製品を使っていない」「食品を買う時は生産地を気にしている」「トイレの水は大小を使い分けている」など、暮らしの中の身近な行動ばかりです。
例えば問題の1番「買い物をするときにマイバッグを持参している」については「日本国内のプラスチックゴミの2%がレジ袋です。プラスチック製品を作り出すのにも多くの原油が必要となり、化学燃料を大量に消費しています」「また、海に廃棄されたプラスチックが流出することで生態系の破壊にもつながります」「マイバックをみんなが持つことでSDGsの『7番 エネルギーをみんなに そしてクリーンに』『14 海の豊かさを守ろう』の2つに貢献することができます」と行動が環境に与える影響や、SDGsのどの目標に貢献できるかを関連付けながら説明。以降、すべての質問について解説し、理解を促しました。
最後は参加者のチェックの数を確認し、一番少ない「4個」だった男性にエシカルグッズの詰め合わせがプレゼントされるという微笑ましい一幕も。「これからは、今以上にSDGsを意識しながら生活していきましょう」という高校生からのメッセージに、会場からは温かな拍手が送られました。
近年、さまざまな場面で取り上げられることの多い「エシカル ethical」という言葉。直訳すると「倫理的・道徳的」を意味し、難しく感じてしまうかもしれませんが、決して特別なものではなく、毎日の生活の中でみなさんが実践できることは数多くあります。
日々の暮らしの中でほんの少し「エシカル」な行動を取り入れていくこと。それにより私たちは世界の一員として無理なく、SDGs(持続可能な世界)の実現に貢献できるのです。このシンポジウムを通じて得られた「新たな視点」や「気づき」が、毎日の消費行動への意識を変えてくれることに期待しています。