一杯の温かいひとときを 能登半島被災地炊き出し出店を振り返って
石川県の能登半島は、元日に発生した地震の大きな被害を受け、現在も復興の途上にあります。インフラや建造物の修復、被災者の支援、心のケアなど、多岐にわたる支援が必要とされています。政府や地域の自治体、ボランティア団体などが協力して復興に取り組んでいますが、その道のりは容易ではありません。
Kurasuとしてはコーヒーができることを信じて、チャリティキャンペーンなどの活動をおこなってきました。そして先日2024年5月8日、能登半島に赴いて炊き出しに参加し、被災地支援活動を行いました。そこで今回、イベントに参加したバリスタのKaoriに特別インタビューを実施。石川県出身の彼女がどのような想いで被災地にコーヒーを届け、どのような気づきを得たのかについて、詳しく聞きました。
—— 今日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます!まずは、Kaoriさんの簡単な自己紹介をお願いします。
Kurasuでバリスタとして働いているKaoriです。普段はKyoto Standでコーヒーを淹れたり、Kashiチームでお菓子作りをしています。取材を受けるのが初めてで少し緊張しています(笑)
石川から京都へ、パティシエからバリスタへの新たな挑戦
—— Kurasuで働き始めたきっかけは何ですか?
高校卒業後に名古屋の専門学校に通い、その後は結婚式場やカフェのパティシエとして働いていました。元々はパティシエがメインでしたが、当時スターバックスで働いていた友人を通じて、コーヒーの面白さに気づき、興味を持つようになりました。
地元の石川にNonstop Coffee Stand & Roasteryができたタイミングで、バリスタにトライし、コーヒーにさらにのめり込んでいきました。それまでもコーヒーは淹れていましたが、理論的に抽出を考えるようになったのはこの頃からです。
その後、Kurasuの求人を見つけ、思い切って応募し京都に来ました。ここで働く中でコーヒーの経験も深めながら、お菓子作りも続けています。ローカルから海外のお客様まで、様々な方とコミュニケーションが取れる環境でバランスよく楽しく働いています。
元日、地震の記憶と復興支援への思い
——本題ですが、能登半島で地震が起きたときにどんな心境でしたか?
能登の地震は本当にショックでした。正月はKyoto Standで仕事をしていて、勤務中にもかなり揺れたなと思い、ニュースで被害の状況を知りました。その翌日に帰省する予定でしたが、電車も止まり帰れませんでした。地元は震源地から遠かったので、皿が割れたりはしたようですが、実家には大きな被害はありませんでした。それでも、家族や友人がいる地元が被災して、知っている地名が報道されている状況では、地震速報のリアリティが増しました。
——何かと落ち着かない正月でしたね...…今回、Kurasuとして炊き出しに参加することになったきっかけはありますか?
まずKurasuに声がかかり、石川にゆかりのあるスタッフがいるからということで、参加が決まったと聞いています。私も地元に少しでも貢献したいという思いがあったので、参加できて嬉しかったです。それで、能登半島中央にある穴水町にKiguのShinnosukeさんと二人で行ってきました。
炊き出し、心を癒す一杯のぬくもり
——炊き出しを通して印象に残っていることがあれば、教えてください。
まだ被災地の生活は厳しい状況のようで、穴水町までの移動中にも道路復旧中の風景が見られました。半年経って忘れられるのも致し方ないかもしれませんが、被災地から離れた場所では、地震の記憶が風化してしまっていることを感じましたね。
その中で、コーヒーを飲みに来てくれる穴水町の方々が本当に温かく、感謝の言葉も多くいただきました。
特に記憶に残っているエピソードとして、町民の方々がよく通っていた喫茶店が今回の地震で閉店してしまい、コーヒーを飲む場所がなくなったと聞いた時は、少し心苦しい気持ちになりました。
しかし、お年寄りの方々が「久しぶりにこんな美味しいコーヒーを飲んだ」と言ってくれた時は、本当に嬉しかったです。また、「ゲイシャ」のコーヒーが好きだと話してくれたのは意外でしたね。
——確かに「モカ」ではなく「ゲイシャ」ってすごいですね!
他にも、子供たちが興味津々にコーヒーの作り方を見ている姿が印象的でした。今回は「Rwanda Ruli Honey」をドリップしたのですが、皆さん口を揃えて美味しいと言ってくれました。場所や世代を超えて、美味しいコーヒーには心を癒す力があると実感しました。
炊き出しを通して、たくさんの温かい人々と出会い、多くの感謝の言葉をいただきました。被災地での生活はまだ厳しい状況ですが、コーヒーを通して少しでも癒される時間を届けられたのであれば嬉しいです。
あと、一緒に出向いてくれたShinnosukeさんには感謝しています。彼はよくイベントに参加しているので、同い年とは思えない頼もしさがあります。一人では心細かったので、すごく助かりました。
コーヒーを通してつながり、乗り越え、癒し合うこと
——貴重な経験をされ、被災地の方々に大切な時間を届けられたと思いますが、今回の経験を通じて得た学びや感じたことがあれば教えてください。
今回の炊き出しイベントで、地域の若者が支えとなる重要性を再確認しました。
今回の企画では、穴水町出身の同世代の青年が動いてくれました。出店用の水を用意してくれたり、炊き出しのことを地元の方々に案内したりと、地元のおじいちゃんやおばあちゃんにも彼が信頼されているのを感じました。
少子高齢化をはじめ、地方には多くの課題がありますが、そんな中で地域のコミュニティの「アンカー」となっている同世代がいることに安心しました。同時に、今私がいる京都も地震の影響を避けられない場所で、地震に限らずともコミュニティとして何ができるのかを考えるきっかけになりました。
そして「コーヒーには人々をつなげ、心を癒す力がある」と、今回のイベントを通して強く実感しましたね。災害時には、一杯のコーヒーが大きな安らぎの時間を届けてくれる。被災者の方々にとって、体も心も暖まる時間を少しでも提供できたのであれば、嬉しいかぎりです。
——最後に、このイベントレポートを通して、伝えたいメッセージがあればお願いします。
伝えたいことは、「備えあれば憂いなし」ということ。実は私も、家で防災グッズを揃えたりしています。防災への意識は日ごろから大事にしていきたいですね。
——間違いありませんね。災害のリスクからは逃れられないですし、「もしも」ではなく「いつ、どのように」と明確に備えることって重要ですね。そして災害が起きてしまったときにコミュニティで助け合うことの大切さも、お話を通して実感しました。今回はインタビューのご協力ありがとうございました。