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《取材記事③》器が「自分のもの」になっていく

想いをこめた「手しごと」と、「食」、作り手と使い手が出会える新しいクラフトイベント「くらしずく」。

開催まであと少しとなりました。

今回のテーマは「ながく、つかう」。開催に向け、当日、金継のワークショップを開催する水野谷八重さんにお話をうかがいました。
いよいよ最終回の公開です。

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金継ぎによる修理の依頼を受けて八重さんのアトリエにやってくる器の破損状態は、実に様々だ。

「取っ手が取れちゃったり、急須の注ぎ口の割れとか。完全に割れてしまったものもあります」

さすがにバラバラになってしまっているものは「パズルのようで直すのが大変」だそうだが、

「それでも直したいという方はいらっしゃいます」

という。

八重さん愛用の急須。折れてしまった注ぎ口は金継ぎで修復した。笠間の陶芸家、額賀章夫さんの作

一度壊れてしまったものを、また使えるようにしたい、再び形あるものとして甦らせたい。その強い思いはどうしてわき上がってくるのか。その思いを受け止める金継ぎの魅力とは、一体どういうものなのか。

「その器が、また別のものになる。自分のものになる」

八重さんは、そう表現する。

「例えば、白いだけのカップだったところに、ひとつ金継ぎのワンポイントが生まれることで、なんとなく『あれっ!?』て感じになったり。そうしてまた愛着が出てくるんですよね」

器は、その器の作り手が作った器、という事実は変わらない。しかし、器は変わってゆく。賑やかな毎日の食卓の中で使い続けていったり、或いは柔らかな朝日の差し込む窓辺に置いて飾ったり。そしていつの間にか、その器を手に入れた瞬間の器と、別のものになる。自分のもの、誰かのものに変わっている。

そんな器が思いがけず欠けたり、壊れてしまった時、金継ぎが活躍する。金継ぎが素晴らしいのは、器に心寄せていたその気持ち、愛着までをも再生できること・・・いや、ただ元通りになるのではなく、いっそう「自分のものになった」器に変わることである。

しかし、ここで一つ疑問が浮かんでくる。
金継ぎという修理をして目立たせた結果が、感覚的にいいなと思える状態になるということは、改めて客観的に捉えると、実に不思議な感覚ともいえるのではないか。本来、あるべきはずの形。その固定のイメージからひとたび外れてしまったら普通、心理的にその事実を排除したくなるのではないか。見せたくない、隠したい、忘れてしまいたい、なかったことにしたい、と。例えば、愛車にうっかりキズを付けてしまったら、多くの人はキズを目立たなくすることを考えるはずだ。

その問いに八重さんは、ヤンさんの陶芸教室の先生たちとともに、フランスで展示会をした時の出来事を話してくれた。現地では器の展示をしつつ、金継ぎのデモンストレーションを行っていたのだという。

「現地の美術館の修復師の方が来ていて、その方が『すごい日本的だ!』って言いながら、食いつくように見ていたんです。『割れたところをあえて見せたり、金で目立たせるなんて』と。西洋的な修理の仕方は目立たないようにするんです。フレスコ画とかもそうじゃないですか。馴染ませて目立たないようにさせる。加飾してわざわざ『景色』を作るということが、すごく日本的だって言われて、確かにそうだなって思いましたね」

そう、金継ぎを施した後、そこには新たな「景色」が生まれる。

「お茶道具などの金継ぎは、室町時代から始まったそうです。割れた器に加飾して、それが梅の枝に見えるとか、それがどこどこの景色のようだと言ってみたり。そういう『見立てる』という感覚が、元から日本人にはあるんでしょうね。そういうことを、美しいと感じるような感覚が」

今を生きる私たちの中にも連綿と流れるその感覚。八重さんの漆の作品や金継ぎは、その美意識を呼び醒ますきっかけになっているような気がしてならない。

そして時に、見立てられた景色に「自分」や「大切な誰か」の記憶が重なり、器に宿る世界が無限に広がる。或いは、記憶そのものが見立てられるのかもしれない。

洋ナシをモチーフにした小物入れ。愛らしいフォルムでありつつ、奥ゆかしい佇まい

「ながく使うほどに、様々な記憶が残ると思うんです。その器と子どもの時に食べたものとか、誰と食べたかなとか。いろいろなことがつながっていく。だから、大切に使い続けていけば、もっと自分のものになっていくし、子どもにも残していける」

そう言って八重さんは笑った。

美しさとはなにか、生きる喜びとはなにか。そんな答えがいくらでも思い浮かんでくる問い、いや、答えは無いと言ってもいいのかもしれない問いについて、「自分のもの」をながく使うことによって「自分のこと」として解釈し、感じることができるようになる・・・のかもしれない。漆に奥に映る微かな光を見つめながら、そんなことを思った。

八重さんのアトリエ。長柄の森に抱かれた環境だ

ーーーーーーーーーーーーーーーーー-----------------《9月23日(日)くらしずく2018にて開催。》※定員に達したため受付終了

「ながくつかう」金継ワークショップ【初級編】
講師:水野谷八重

金継ぎは割れたり欠けたりした器を漆で補修し、金粉などで加飾する日本古来からの修理方法です。
今回は初めての方でもできる、初級編の金継ぎワークショップです。欠けてしまったお気に入りの器をご自分の手で素敵に甦らせてみませんか?

募集内容
●時間 午前の部 10:00−12:00  
   午後の部 13:30−15:30
●定員 各回8名
●参加費 3,000円お茶代+送料
●持ち物 欠けのある器1点
     *欠けの大きさは2㎝以下の小さなもの
     *今回は割れ、ヒビの修理は不可(修理のご相談はお受けいたします)
     *スペースの関係上大きな器(径30cm以上)はご遠慮ください
●申込み方法 予約は電話またはメールでの受付となります。定員に達した場合は先着順に締め切らせていただきますので、ご了承ください。
電話:0475-76-3551(菅原工芸硝子 月~金 10時~18時)
メール:kurashizuku@gmail.com

●作業内容 欠けた部分をパテで埋めて漆を塗り、金粉(銀粉)を蒔くところまで行います。器は一旦講師がお預かりし、仕上げ作業をしてから後日郵送でお返しします。

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