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ステロイド事始め

こんにちは。おくすりアドバイザーの井田です。
炎症やアレルギー疾患の治療薬の一つとして副腎皮質ステロイドがあります。今日臨床の現場では内服や注射、概要等の剤形で広く臨床に供されています。

「副」という字がつくものは世間ではそれ程重要でないものを指すことが多いのですが、生体の中では「副」という臓器には極めて大切なものが多くあります。特に内分泌臓器の中において副腎や副甲状腺にも「副」がついていますが、この臓器なくして誰も一日として生きていけない程の大切な臓器です。
副腎は腎臓のそばにありますが、機能も構造も腎臓とは全く別もので、その髄質からは日常よく耳にするアドレナリンが分泌され皮質からは副腎皮質ホルモンが分泌されています。この副腎皮質ホルモンが一般に「ステロイド」とよばれています。

この副腎皮質ホルモンが注目され始めたのは第二次世界大戦が始まる頃で、米国でペニシリンや抗マラリア剤とならんで国家的な研究の対象になったことに由来しています。ドイツ空軍は兵士に副腎皮質ホルモンを注射して高度1万2千メートルの高空戦闘にも耐えられるということが米軍に伝わり、軍の医部がその研究体制構築に着手したことが大きなきっかけになったと言われています。

ドイツ空軍の話はあとで全くの噂話だと判明したのですが米国での研究陣は戦争中にこの副腎皮質ホルモンの半合成に心血を注ぎ、戦後になってその量産法が漸く確立され、生化学者E.C.Kendallや医師のP.S.Henchらの貢献により具体的に臨床に供されるまでになりました。両氏ともに1950年、副腎皮質ホルモンの発見およびその構造の生物的作用の発見への貢献によりノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
以後戦後の日本でも副腎皮質ホルモンの効果に注目され、リウマチ患者への劇的な効果が確認されたことを手始めに以後広く臨床に供されるようになったことは皆様ご承知の通りです。

メキシコの偉大な壁画家ダビド・アルファロ・シケイロス(1896~1974)が描いた“ジャングルの宝”という油絵の作品があります。メキシコ南部のジャングルに自生する山芋“バルバスコ” を原住民が採取しているところを描いています。このバルバスコには“ジオスゲニン”というステロイド配糖体が含まれており、これは1963年日本人の学者によってはじめて分離されたものです。現在、ジオスゲニンは多くのステロイドホルモンの合成材料として重要な物質になっています。
各国の製薬企業はステロイド剤の製造の為メキシコからバルバスコを大量に仕入れ、中にはステロイドを専門とする製薬企業をメキシコに設立するケースも見られました。

ステロイドの多様な薬理作用は関節リウマチや膠原病諸疾患、ショック、各種皮膚疾患等幅広い臨床応用に繋がっておりますが、反面副作用の種類も多くムーンフェース、多毛症、皮膚線状等の比較的軽いものから、誘発感染症、ステロイド糖尿病、骨粗鬆症等の重度なものまで常に意識しておかなければなりません。しかし副作用を極度に恐れ、使う時に使わないことはかえって問題になることが予想されます。また医師の指示があるまで自己判断で中止しないことも大切です。先人が幾多の研究を積み上げ開発してきたステロイド剤ですが、これからも多くの基礎・臨床研究の継続により、さらなる育薬に繋がっていくことを期待しています。

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