overtourism

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                    2019/08/02 第529号
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【overtourism】

こんにちは。お薬アドバイザーの井田です。
 今回はお薬の話から離れ、我がまち奈良の近況について少しお話ししたいと思います。
 日頃の運動不足の解消と様々な人との交流を楽しむべく、月に何回かボランティアで奈良の観光案内を楽しんでいます。
 例年の春秋を中心にした修学旅行生の光景に加え、最近はことの他、外国からの旅行者が顕著に増え、且つての奈良とは大きく様変わりしています。

 日本を訪れる外国人の数は、昨年既に3千万人を超え、今後もさらなる増加が期待されています。
格安航空会社の進出やビザ規制の緩和、アジア諸国における中産階級の台頭等がその背景として挙げられているようです。
 奈良県のホームページにも国別や月別に詳細に外国人観光客の動向が報告されています。直近の令和元年6月度の奈良を訪れた外国人観光客数はおおよそ290万人にものぼり、昨年同月比で6.9%もの増加を示しております。

 奈良には以前から多くの外国人の訪問はありましたが、主に欧米からが主で今日のように中国を筆頭とするアジア諸国から日本人以上の観光客が訪れる今日の奈良の風景を想像することができませんでした。
 奈良での経済効果は宿泊や飲食、ショッピング等でとても期待できるものですが、反面、市民生活や寺社仏閣、公園等に多大な悪影響をもたらしていることも事実です。

 奈良公園内はトイレ施設もかなり充実しているのですが、和式である場合、その前後が分からないことから汚されることが多く、日々の清掃業務がなかなか追い付かないという状況が県の担当部署より報告されています。
 春日大社の境内をレンタサイクルで走り回ったり、寺社の石段に座り込み、しばしの休憩やおしゃりスペースに使用されたりと、それぞれ祈りの場の凛とした清浄な空気が損なわれていることもしばしばです。
日本人として、目を覆いたくなる外国人のふるまいはまだまだ沢山あるのですが、一つ一つここに書くことさえはばかられてしまいます。
 
 奈良公園と言えば国の天然記念物にも指定されている鹿がとても外国人に人気があるのですが、おなか一杯の鹿せんべいにありつける反面、今まで経験したことの無いような多くの被害にもあっています。
 公園の鹿には証紙で巻かれた鹿せんべいしか与えてはいけないのですが、ペットに接するような感じでポプコーンのようなスナック菓子を与えたり、中には子犬や猫を抱くように小鹿を抱っこして記念撮影を楽しんでいる観光客も見られます。
 スナック菓子の味を覚えその臭いが残っているポリ袋を食べてしまう鹿も多く先般、テレビや新聞でも報道されたのですが、死亡した鹿を解剖してみるとその胃から大量のポリ袋の塊が出てきたこともありました。
 小鹿を抱っこするとその人の臭いが小鹿に移ってしまい、母鹿は我が子と認識せず、以後子育てを放棄してしまいます。
母鹿に無視された小鹿は可哀そうですが自身で生きていく力がなく、カラスの餌食になったりすることもあります。
 以上のようなことは外国人観光客による現在の奈良の被害の一端でしかありません。

 以前からイタリアのベネチアやナポリ、スペインのバルセロナ、ペルーのマチュピチュといった世界の有名な観光地では、地元住民が受ける各国からの観光客からの迷惑行為や環境保護の観点から、観光客を排除、制限する動きが見られています。
このような状況は国連世界観光機関(World Tourism Organization:UNWTO)でも取り上げられ“overtourism”という用語で捉えられています。
 今日多くの国がそれぞれの経済発展の政策の一環として観光産業に力を入れており、日本も来年の東京オリンピックも視野に入れ2020年には4千万人の訪日外国人獲得を目指し国としての施策を展開中ですが、観光を重視するあまり本来の日本の良さが失われていくのは見逃すことができません。

 今日、奈良公園を歩くとき、修学旅行生を除けば外国人旅行者の方が圧倒的に多いのが現実です。少しでも世界遺産のこの奈良の美しい歴史的景観を多くの海外からの旅行客に楽しんでもらいたいのですが、またその反面、志賀直哉が愛した奈良の姿や佇まい、和辻哲郎が著した「古寺巡礼」の世界に戻りたいと思う昨今です。
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