アースシップ美馬にいってきました(後編)
こちらの記事は後編です。
初めてお読みいただく方はまず前編の方からお読みください。
敷地内に入る急な坂道を車で上がるといきなりアースシップが現れました。
下の道からは見えないようになっており、敷地に入り登っていくと急に現れたので不意をつかれた感じでした。
車を止め歩いて歩いていくと玄関が現れました。
近くで見ると建物の持つ不思議な雰囲気が伝わってきました。
全然ちがうかも知れませんが、「ナウシカみたいだ」と思いました。
オーナーの倉科さん。
こころよく出迎えてくれました。
挨拶をかわした後、まずアースシップの概要についてお話してもらいました。
アースシップ美馬の特徴
アースシップは半分が土の中に埋まっており、そのおかげで一年を通して室温が平均21度に保たれます。
ただ、最初は温度の調整に1年くらいかかるそうで、最初の冬は火鉢を使っていたそうです。でも真冬でも火鉢ひとつで過ごせたそうですので、さすが砂漠などの厳しい条件下で建てられている家だなと改めて感心しました。
電気について
空調がいらない、オフグリッドであるという事がアースシップの特徴のひとつですが、その電気はというと太陽光パネルが12枚設置されておりそれによって電気を発電し、発電した電気を車のバッテリー10個に畜電して使用しているそうです。
バッテリーは家の外(家の入り口横の物置のようなところ)に保管してあります。
これがバッテリー。
バッテリー自体はトラックやバスなど大型車両用のバッテリーを10個使用しているとの事。これをインバーターで電気を変換して使用。
訪問時はちょうどバッテリーを交換したタイミングだったようで、前のバッテリーは2年半の時点で交換したそうです。
倉科さんいわく、ちゃんと車のようにバッテリーを点検していなかったとの事なので定期的に点検すればもう少し伸びるかもしれません。
電気の使用感ですが、ドライヤーは使えないけど冷蔵庫は使える。アイロンはダメ、ウォシュレットは試したわけではないけど業者がダメって言っていたそうです。ドライヤーやアイロンは使った瞬間落ちるそうです。
後ほど紹介しますが、これを補う方法としてポータブル電源を使用しているそうです。
いよいよアースシップの中へ
入り口。ここから中に入っていきます。
中は明るく、温度は少しあたたかいなという程度で過ごしやすい温度でした(この時は7月)
この写真でいうと右側が南でガラス面にあたります。
上の方までガラス張りなので陽が室内に入り、とても明るいです。
中ではいちじくの木が植えられており、実もなっていました。
家の中で食べられるものを育てる事ができるって最高ですね。
水について
倉科さんに給水のシステムを説明してもらいました。
下の方の黒い管に貯めた雨水が入ってきて、塩素で殺菌した後で塩素を除去する装置を通るそうです。
アースシップ美馬は宿泊施設なので法律で雨水をそのまま使用する事はできません。ですので、塩素を投入し殺菌した後に塩素を除去するという手法をとっています。3〜4段階の工程を経たのちにプレッシャータンクという水圧をかけるタンクによって各蛇口に運ばれます。
これがプレッシャータンク。アメリカ製だそう。
個人輸入ができないのでアースシップの施工業者に現地で購入してもらったそうです。
お湯は建物の前にある太陽光温水器で温めます。
ただ、天気の加減で太陽光がむずかしい場合はプロパンガスの給湯器で補うそう。
この切り替えは自動でされるので電気さえ通っていれば暖かいお湯が出てきます。
排水
排水はいったんフィルターを通って髪の毛などを取り除いたのちに、土の中の層を通ります。土の中は小石や砂利、砂などの層があり、そこをお水が通ることによってろ過されるという仕組みです。つまりバイオジオフィルターによって水がろ過されるという事です。
この下を水が通ります。
少し切れていますが、上にタイマーがあり土の中の水が定期的に循環するようになっています。
水が溜まっていると匂いの原因になったり虫が発生したりとあまり良くないそう。
逆に循環させることにより植物に水をあげることができます。
キッチンの前にはいちじくとアボカドが植えられていますが、一度も水をあげた事がないそう。成長も早いそうです。循環した水は水洗トイレへ。
土の中を通るのでトイレの水は若干茶色いそうです。
その後家の外の浄化槽に行き、浄化槽は側溝へとつながっています。
普通は浄化槽から下水につながっていますが、山の中なんで下水は無く側溝から最終的に海へと流れるそうです。浄化槽から出る水は綺麗に浄化されている水なので側溝に流しても問題ないとの事。
寝室
寝室はちょうど後ろ半分の土のなかに埋まった部分に位置します。
写真では分かりづらいですが、壁の表面がボコボコしています。
これは普通の家とはちがい、タイヤを積み上げて作ったから。でも気にならないどころかむしろデザインみたいで全く気になりませんでした。
この写真でいうと、ちょうど白い壁の稜線(境目)まで土が埋まっているそうです。
部屋の上には天窓が。これによって部屋の中に十分な光が入ってきます。
天井は大工さんと倉科さんがインパクトドライバーで板を止めていったそうです。
天井にある通期孔。暑い空気を外に排出します。
北側の壁についている空気孔。土管が通っていてL字型で地上まで伸びています。
部屋が暑い場合はここを開けると北側の土中を通った冷たい空気が部屋の中に入ってくる仕組み。
部屋の中からみた南側。
ここのドアを閉めるとガラスが曇るくらい涼しいそう。
床
僕がずっと気になっていた床についてもお聞きしました。
床は実はコンクリートでできているそう。
僕は最初それを聞いてかなり驚きました。
どうやってこんな色や模様ができるかと言うと、化学変化をおこして色が変化しているそう。
具体的には酸化鉄。
農業用の酸化鉄をお湯に溶かし、コンクリートが固まる前にまいて、上にビニールを被せると空気に触れるところと触れないところで酸化のスピードが変わり、それによって色の変化がつくそうです。
すごい!
家の外壁も実はコンクリートでできていて、その外壁を酸化鉄で着色しているそうです。てっきり土なのかなと思っていたので意外でした。でも雨が降ってもほとんど色が落ちないそう。海外では結構頻繁に使われる手法だそうで、安価で簡単にできるのでこれはいいなと思いました。
外壁です。スポンジやスプレーを使って着色していったそうです。
家の換気は?
アースシップの中を見ていてふと思ったのが、換気するような設備が無い事でした。キッチンの上にもお風呂場にも換気扇が無いのです。
普通ならカビが生えたりするところが、そういった事が無いようです。
倉科さん曰くその理由は2つあるそうです。
①天井部分に塗装をしていない木を使用しているので、それが湿気を吸ってくれて部屋の湿度を調整してくれているのではないかという事。
②天井に付いている天窓が余計な湿度を逃しているのではないかという事
確かに、家の上部はほとんどが木で出来ていますね。塗装もしていないそうなので湿気を吸ってくれそうです。
これが天窓。ロープが付いておりこれを引っ張ったりする事で開閉する仕組みです。
倉科さんに実演してもらいました。女性でも開閉できるくらいなのでそんなに重くはなさそうです。
僕もやってみました。
やる前は勘違いしていて、引っ張ったら窓が開くのだとばかり思っていましたが逆で、引っ張ると窓が閉まります。窓の所に砂利が入っており、その重みで窓が開くそうです。写真のように両手でロープを引っ張ります。そうすると窓が閉まります。
少し重みは感じますが、そこまでの重みでは無いので確かに女性でも扱えそうです。開けておく時はだらんとロープを緩めた状態で引っ掛けておきます。
こんな感じで引っ掛けておくだけです。
逆に閉めておくときは結びつけてしっかりと固定しておきます。
ポータブル電源
冒頭でアースシップはソーラー発電で、しかも車のバッテリーを使用しているのでドライヤーやアイロンは使えないと書きましたが、それを補うのがポータブル電源。
左にあるのがポータブル電源。
オプションでソーラーパネルが付いているのでソーラー発電ができるそう。
天気の悪い日は車のシガーソケットでも充電できるので車で買い物に行くときにつなげて充電するそう。
倉科さんはドライヤーを使いたかったという事と、ミキサーを使いたかったという事で導入したそう。
写真の上にあるのがミキサー。バイタミックスという出力のおおきいものですが問題なく使えるそう。またアースシップの電気が落ちた時も非常用に使えるのでかなり便利ですね。
アースシップに住んでみて
倉科さんに内部の説明をしていただいた後、住んでみた体験談などをお伺いしましした。
倉科さんがおっしゃっていたのは、今の住宅と比べてみると便利さという点においてはアースシップは違うところがある。
今の住宅と違う点は、自分が自然に寄り添っていくという点。
現代社会における『暮らし』という意味では、そのままの暮らしはできない。どちらかと言うと自分を変えていくようなライフスタイル。
自分を変えていくというのは自分が自然に合わせていく『自然に寄り添っていく』という事。でも大変すぎる暮らしでは無い。また気になっていた台風ですが、アースシップの形状からかほとんど影響を受けなかったそう。
まさにここで暮らしている人ならではの感想だなと思いました。
土地はどうやって探したのか
アースシップ美馬が建っている場所は小高い場所で景色もよく、周りに家も無いのでプライバシーも気にする必要がありません。
そもそも、この場所はどうやって探したのかについてもお聞きしました。
この場所は倉科さんがアースシップを建てたいという事を地域の人が聞きつけて「よかったらここいいよ」と紹介してくれたそう。
その持ち主の方と売買契約を結んで土地を購入したという事でした。
広さは300坪あるそうです。
なのでここがいいとなったのでは無く、たまたま紹介してくれた土地が絶好のロケーションだったという事です。
天気がいい日は日本百名山にもあげられる剣山も拝めるそう。
アースシップの後ろから撮影。遠くの山々まで見渡せます。
周りには家が無く、見えるのは山々のみ。表がガラス張りでプライバシーが気になりましたが、このロケーションなら気にする必要な無さそうです。
アースシップを建築するのは難しい?
僕が気にかかっていた事は、日本で第1号のアースシップ美馬が建ってから第2号、第3号が全く出てこない事。
おそらく建築するのにハードルが高いんだろうなと思っていましたが、倉科さんに建築する上での難しさについて聞いてみました。
結論から言うと建てるのは難しいです。
なぜなら建築する上でいくつものハードルがあるから。
まず建築する上でのハードルは法律。日本には建築する上での法律があります。
これは弁護士に相談したり日本の建築事務所に相談したりと建築の法律に詳しい人に相談しなければなりません。
また、海外とのコンタクトが必要だというのもハードルです。
アースシップは海外のしかるべき建築会社に注文するか、アースシップ建築を海外で学ばないと建てられません。
海外では自分たちで完全にセルフビルドする人達が多いですが、それはアースシップのスクールに通い学びながら家を建てているそう。
美馬の場合は、アースシップの建築家を海外から呼びワークショップ形式で建築が行われました。
ワークショップは倉科さんが呼びかけをしたのに加えて、アースシップ建築の会社も呼びかけをしたそうです。
アースシップを自分で建てたい海外の人が世界中で行われているアースシップのワークショップに参加して建築技術を学んでいるとの事で、実際美馬のワークショップには外国人の方の方が多かったそう。
なので、実際に自分が建てるとなると海外からアースシップの建築家を呼んで、ワークショップを開催して建てるという事になるのでかなりのハードルだと思います。
アースシップ建築にかかる費用について
あと一番のハードルが資金面。
普通の建売や注文住宅のように住宅ローンが組めるかどうかは不明です。
そのため、かなりの額の現金が必要になってきます。
アースシップ建築家に支払う費用、建材にかかる費用、また日本の法律に沿わせる為に弁護士に相談する費用。。。。などなど
でも、費用はこれだけでは無いんです。
例えばワークショップを開催するための費用。
具体的には
・スタッフへの賃金
・通訳を雇う費用
・ワークショップ参加者が寝泊まりする場所にかかる費用
・建築家、スタッフ、ワークショップ参加者に提供する食事を作るシェフを雇う費用。および、食事を提供するスタッフの賃金
などなど。
とにかく海外に払うお金が多いので現金で用意しないといけない。しかも信用に関わるので支払いを滞らせる事はできません。なので動いている間は常にお金を支払っている状態です。
で、皆さんが気になるかかった費用ですが、倉科さんが懸念されていたのは金額が一人歩きしてしまう事。
普通に家を注文する時のように単純ではなく、実際に建築にかかる費用の他にワークショップ開催にかかる費用、それ以外にかかる費用など様々な費用がかかります。それは建築する国や地域など場所によっても違うし、物価や為替などその時によっても違います。
ですので、ただ数字だけ聞くと勘違いする人もいるのでそこを気にされていました。ですので、ここで具体的な数字を記載するのは避けたいと思います。
ただ、ヒントとしてはざっくりですが新築一戸建てを建てる費用と同じくらいかかるそうです。
倉科さん自身、廃材を使用するのでもっと安くできると思っていたそうです。
僕もそうです。
でも、倉科さんは日本で前例がなかったので間違えた事もあるそうで、次建てたとしたらもっと安く抑えられるのではないかという事でした。
今後日本でアースシップを日本で建築する人は倉科さんに相談を受けながら建築すればもう少し安く出来る可能性があります。
アースシップ美馬では建築相談もしているので建築したいと思っている人は相談してみてはいかがでしょうか。オンラインでの相談も可能だそうです。
廃材はどうやって集めたのか?
アースシップは多くの部分が廃材を使用して建てられています。
使った廃材は廃タイヤ約800本、空き缶約13000個、空き瓶約4000本。
しかも廃タイヤは普通車サイズでは小さいので4駆サイズ限定。
これを集めるだけでもかなりの苦労です。
廃材は地域の人たちに協力してもらって集めたそうです。
建てるまでには建築許可がおりるまで時間がかかるようです。
だいたい1年くらいはかかるという事なのでその間に廃材を集めるのがよいと思います。
ただ、やはり地域の人たちの協力なくしては集めるのは困難ですので、いかに地域の人たちの理解を得るかも重要だと感じました。
その点倉科さんは地域おこし協力隊として地域に貢献していた事もあり、比較的地域の人々の理解を得るのも難しくなかったのではかいかと想像できます。
ワークショップを開いた時の話
すでに書いたとおり、アースシップ美馬はワークショップを開催し、参加者の手を借りてある程度まで建築したという事です。
ワークショップ参加者の半数以上は外国人。様々な国の人たちが4週間滞在し建築に参加する。主催者側としては寝る所と食事を用意する必要がありました。
寝る所は近くにある『山人(やまんと)の里』という施設を2ヶ月借り切ったそうです。
食事は労働があった日のお昼ご飯はこちらで用意していたという事です。
シェフを雇って約70人分の食事を提供していたそう。当然70人分ともなるとスタッフも必要で、6〜7人雇い毎日3人体制で対応したという事です。
まるでサーカスの一座みたいですね笑
美馬は田舎町、外国人といえば地元の学校で教えている英語教師しか知らない。
そんな場所に肌の色も言葉も違う人たちが大挙してやってきたわけですから当然町の一大事です。そんな村のおじいちゃんおばあちゃん達と外国人達のコントラストが倉科さんにとってはとても面白かったそうです。確かに想像すると面白い笑
近くに1件だけある酒屋には毎日大挙して外国人が買いに訪れたそう。
建築の先生が事前の心得として、近くの酒屋にいつもより多めにお酒を用意するよう伝えておくようにと言われたそう。
でも一見不釣り合いな町の人と外国人ですが、4週間もあれば仲良くなっていったそう。終わって参加者が帰る時には「寂しいなぁ」ってなっていたそうです。
ワークショップ期間中にあった心温まるお話
倉科さんからワークショップの開催中にあったある出来事についてお聞きしました。
山をおりた所に金物屋があり、外国人の先生で資材担当のイギリス人が毎日そこに釘などを買いに行っていたそうです。
最初は通訳を従えて行っていましたが、通訳も忙しく一緒に行くのが難しくなってきて仕方なく一人で買いに行く事に。
言葉がわからないので通訳のアプリを入れてそれを使って伝えていましたが、なぜかお店のおばちゃん達もアプリを入れだして、お互いそれでやりとりして資材を調達していたそうです。
最後の日に倉科さんがみんなを車で空港に送って行く時に、その店の前で停めてくれと言われ『何か買いに行くのかな?』と思っていたら、戻ってきたら泣いていたそう。
聞いたらお店の人に「今日僕はこれで国に帰ります」と別れを告げたら、一番仲が良かったおばちゃんが号泣し、それにつられてその外国人も泣いてしまったようです。その人は「絶対にもどってくるから」と言って出てきたとの事です。
その後倉科さんがその店に行くと、当事者とおぼしきおばちゃんが倉科さんを見るなり思い出して泣いてしまったそう。
おばちゃんはその後英語を習いはじめたそうです。
なんとも心温まる出来事が4週間の間におこっていたんですね。
そういった交流が町中のあちこちで行われ、言葉の垣根をこえて親交がおこなわれていたんです。
僕はその話を聞いて、まるでオリンピックだなと思いました。
アースシップ美馬を見学し、お話を聞いてみて
アースシップを実際に建てるとなるといくつものハードルがあるなと感じました。
資金面もそうですが、実際の建築するにあたって講師を外国から呼んだり、ワークショップ開催の準備など施主自身がやらなければいけない事が多々あるので、1つのプロジェクトのプロジェクトリーダーとして行動する必要があり、マネジメント能力も必要だと感じました。
あともう一つ印象深かったのは、家を建てるというと普通は個人や家族単位のイベンドだったりしますが、アースシップにおいては町ぐるみのイベントになってしまうという点です。これはもう単なる建築ではなく一種のお祭りなのかも知れません。
色々見させていただき、お話を伺う事ができ、自分の想像と違うところもいっぱいありかなりの収穫でした。
今回特別に対応してくださった倉科さんには本当に感謝いたします。
アースシップ建築に興味がある方、建築してみたいと思っている方は是非一度アースシップ美馬に宿泊してみる事をおすすめいたします。
僕たちも今度はちゃんと宿泊してみようと思っています。
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