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「1円も生まない仕事」は本当に1円も生んでいないのか
「1円も生んでないのに頑張っちゃってる」
この言葉、最近私たちスタッフの間でよく交わされるのですが、決して悲観的に言っているわけではない、というのが今日のコラムです。
くらしアトリエではNPO法人として現在、「WEB発信事業」「地域のものづくり支援事業」「地域デザイン事業」という3つの事業を行っています。
それぞれが関連性を持ちつつ、随時イベントを企画したり、パッケージやプロダクトのデザインを担当したり、という具合に事業を遂行しているのですが、この中で「活動の一番の核なのに、まったくと言っていいほど利益を生んでいない」のが「WEB発信事業」です。自慢げに言うことでもないのですが…。
NPO法人は「特定非営利活動法人」であり、その名称の中に「非営利」という言葉が入っているせいで、「利益を生んではいけない」と誤解されがちですが、これは間違いで、お金を儲けること、利益を生み出すことには問題がありません(生じた利益を分配することはNG)。
過去の記事もご参照くださいね。
事業の中でイベントを開催したり、デザインを担当したりすれば収入が生まれるわけですが、それがほぼ生まれないのが、自分たちが活動の中で一番大切にしている「発信」という部分なのです。
このことをスタッフは悲観するどころかむしろ面白がって、「1円も生まないのに頑張っちゃって」と思っている。
でも、それって本当に「なにも生んでいないのか」というのが、今回のコラムのテーマです。
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例えば…先日、浜田市と江津市を訪れたときのこと。当日の行程はこんな感じでした。
①あじさいの写真を撮るために「大麻山神社」へ(途中、道が本当に悪くて何度かくじけそうになりながら)
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②神社の境内を散策
③神社の上にある展望台まで車で移動し、日本海や浮かんでいる小島が見える美しい風景を撮影(私は高所恐怖症のため1分もいられませんでしたが…)
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④近くにある「室谷の棚田」に立ち寄り、棚田の風景を撮影
⑤山を下りて道の駅「ゆうひパーク三隅」でまたきれいな海の写真を撮影
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⑥江津市内でお昼ごはん
⑦江津市の「宮内窯」さんと「嶋田窯」さんに10月のうつわイベントの時に販売する商品のオーダーについてお願いをさせていただく
⑧松江へ戻る
…という行程だったのですが、⑦の「宮内窯さんと嶋田窯さんに行く」のころだけが一般的に見ればお金を生むと言われる部分で(くらしアトリエでは「地域のものづくり支援事業」に当たります)、それ以外の①から⑥、神社やら棚田やら道の駅やら…これらは全部、ぱっと見1円にもなっていません。(むしろガソリン代や高速代、お昼ごはんなどを考えるとけっこうなマイナスだったりします…。)
神社に向かう道が本当に何かのアトラクションかっていうくらい酷くて、対向車が来たら絶対にすれ違えないくらい細い道に、雨上がりで濡れた枯れ葉が積もり、上からはしなだれかかった木の枝、という道を走りながら、「1円にもならんのにこんな思いまでして…」と思ったら何だかおかしくなってしまい、ゲラゲラ笑いながら運転していました。「また、会計担当に呆れられるね」と言いながら。
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じゃあ最初から松江⇔江津の行程で行った方が無駄がないじゃん、という方もいらっしゃるかもしれません(江津から浜田市の三隅までは小一時間ほどかかるのです)が、当然そうではなく…自分たちにとって「これから見ごろを迎えるあじさいスポットに出かけて写真を撮る」ことや、「島根のきれいな風景をカメラにおさめる」ことは、お金を生む・生まないという次元では語れない「仕事」なのです。
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もともと、2005年の3月に任意団体「くらしアトリエ」としてまず最初にスタートさせたのは、ホームページでした。
山陰の魅力を、まだ気づいていない方々に届けたい。「ここに暮らすって案外いいよ」というのを、教えてあげたい。自分の意識を変えれば、田舎だからとか、不便だからといった指標ではないものさしで、住んでいる土地を測れるようになるはず…そんなメッセージをどうにか伝えたくて、ホームページを立ち上げたところから、私たちの歴史は始まっています。
リアルなお店をオープンさせたい!というような志は当初からまったくなく、要するに「発信する」「伝える」「届ける」というのは、初めからくらしアトリエの中心にある大きな核だったわけです。
そして、それは今でもまったく変わりません。だから、1円も生まなくても島根の端っこまで(怖い思いをしながら)あじさいを見に行くし、鳥取の端っこの海を撮影しに行ったりもするのです。
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じゃあ、なぜそんなことをするのか、と言われれば、「伝えたいから」のひと言に尽きます。
「こんなにきれいな海があるんだ!」「今度行ってみたいな」「このカフェおいしそうだな」など、見ている方に共感していただき、行動に移していただいたり、意識を変えていただいたり…そして、その先に「この街に暮らしていて良かったな」という気持ちが生まれるような、そんな「変化」を体感していただくために、ずっとずっと、伝え続け、届け続けているのです。
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くらしアトリエの活動自体、「島根っていいところだよって、みんなに感じてほしい」という目的のもとで行っています。
この土地で暮らすことって案外楽しいですよ
そう思いながら前向きに過ごす方が、絶対にいいと思いますよ
そしてその思いを、お子さんやお友だちなど周りの人にも広めていくと、さらに多くの人が幸せになるような気がしますよ
…そんな思いを(あくまで自ら気づいていただけるよう←ここが大事だと思っているので、ひっそりと押しつけがましくなく、でもしつこく)ずっと伝え続け、そのためにイベントを企画し、そのためにおいしいものや手仕事のものを販売させていただき、デザインもさせていただいてています。
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だから、発信をするということは他の事業すべてにつながっているわけで、決して「1円も生まない仕事」ではないのですよね。
もちろん、お金を生まない活動だけをしていては法人としてすぐに立ち行かなくなります。また、「島根のいいものを知っていただく」ために、自分たちで物販を行ったり、パッケージのデザインという形で誰かを手伝ったりすることはとても楽しいし、やりがいもあり、活動としても必要なことだと思っています。
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でも、これらの事業の根幹にあるのも、やっぱり「伝えたい」「届けたい」「応援したい」という自分たちの思いです。
そして、同じようにその先に、手に取った方が「島根に暮らしてよかったな」「この土地で暮らせて幸せだな」と思えるようになる、という「変化」があるといいなあ、と思っているのです。
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1円も生んでいないところにむしろ注力し、季節の花々を遠路はるばる見に行ったり、おいしいと言われたお店に食べに行ったり(失敗することも多々)することも、自分たちにとっては仕事のひとつ。出かけた先で思わぬいい出会いがあって、新たな商品を仕入れることになったり、自分たちの活動のヒントをもらったり、ということもあります。
直接的な利益にならないところに一生懸命に振り切れるのも、NPOの大きな魅力のひとつ。
そしてそれは最終的に自分たちにとっては(お金という指標ではないかもしれないけれど)利益をちゃんと生んでいる、というところも、少し主張しておきたいところです。最終的には、帳簿上の数字には直結はしないかもしれないけれど、NPO活動としての利益を生んでいる(と思っています)。
活動の成果を考えるとき、考え方としてこのような指標も取り入れたりしているので、よかったらこちらもご覧くださいね。
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