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小説の中に出てくる「島根」について考える。

2024年もたくさん本を読むぞ!と、年末年始に何冊か興味のあるものを購入して休みの間に読んでいたのですが、そこで感じたとある思いが、今日の「時々、コラム。」のテーマです。

中島京子さんの「ムーンライト・イン」という小説に、「島根」という言葉が出てきました。詳しく言うとネタバレになってしまうのですが、「介護の仕事をしに島根に行く」という描写があり、「おっ」と思ったのです。

こんな感じで、小説に「島根」が出てくること、けっこうあるね、とスタッフと話しました。

例えば、三浦しをんさんの「風が強く吹いている」。登場人物のひとり、清瀬灰二の出身地が島根県です。
他にも、「島根出身」「島根から来た」「島根に行く」という描写、いろんな作品でけっこうあるように思います。自分が島根にいるから余計に目につくのかもしれませんが、ほかの土地よりも比率としては多いんじゃないかなあ……どうでしょう。

これが、決して「島根が舞台の小説」ではない、というのがポイントです。

もちろん、島根が小説の舞台になっている作品もあります。千早茜さんの「しろがねの葉」は石見銀山が舞台ですし、「砂の器」も、島根がたくさん出てきます。

ですが私たちが言っているのは、こういう「島根が舞台」ではないシチュエーション。こうした作品に「島根」が出てくる場合、そのほとんどが、「島根」を「田舎」の象徴として表現している、ということに思い至ったのです。

「島根」を「田舎」に言い換えても意味が通る。そんな存在として描かれているんじゃないでしょうか。

登場人物が「島根出身です」と言ったとき、おそらく皆さんの頭の中には、のんびりとした田園風景が浮かぶのではないでしょうか。電車が1時間に1本くらいしか来なくて、軽トラが道路を走っている、そんなイメージ…。

そんな、「よく分からないが漠然と田舎だと分かる」土地の代名詞として、「島根」という場所がしっくりくるんじゃないかなあ、と思うのです。それは決して悪いことではなく、島根にある「ゆるやかな時間の流れ」や「のんびりしたイメージ」がそうさせているのでは?と思います。

そもそも、「島根」と聞いて思い出すものに、「島根」という単語があまりついていません。

松江城、出雲大社、石見銀山、宍道湖、出雲そば……島根で有名なものはこんな感じだと思うのですが、どれも見事に「島根」という単語がない!
県庁所在地が「松江市」であり、「島根市」でないのも、マイナー感を助長しているんじゃないかと思われます。

だから島根のことを知らない方は、「島根」と聞いてイメージするモチーフがないわけで、そうなると、「何があるかよく知らないけれど、たぶん田舎であろう」という漠然としたイメージが脳内に浮かぶことになります。

これが例えば「鳥取」だったら「鳥取砂丘」というワードがぽーんと頭に浮かぶように思います。なんならラクダを思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。
でも、島根にはそれがない。

だから、小説の中で「田舎」を表現する時に選ばれがちなんじゃないかなあ。

言ってみれば、「よけいな連想をしない」「手垢のついていない」田舎、ということなのではないでしょうか。「島根」と聞いて思い浮かぶイメージがない、ということが、小説では逆に材料になりやすい、ということなのかなあ、と思います。

と、ここまで書いていると、島根についてネガティブな印象を持たれるかもしれません。「島根って何もないの?」「やっぱり田舎なんだね」などなど。

田舎である、ということについては、事実としてその通りだと思います。不便さもまだまだあるし、漠然とした「田舎」の風景は、そこかしこに広がっています。

でも、私たちはそれを悪いことだとは思わないし、そのままでいいよね、と思っています。

自然がたくさんあって、のんびりとしていて、歴史や神話を感じさせるものが各地に点在している。海も山も湖も、島もあって、天守閣が残ってるお城もあり、年に1度は神様が集う、そんな場所、他にないでしょう?
だから、島根は、今のままでいい

ぼんやりとしたイメージで捉えれば「何もない」と言われてしまいがちですが、解像度を上げていくと、国宝や世界遺産もあり、神秘的な風景があり、四季折々の自然を楽しめる場所がある。

暮らしていると、神話がそのまま息づいているのを日々感じますし、神様が集うという伝説も「まあ、そうだろうな」と思わせてしまう風景が、本当に日常的に転がっているのです。

それを、無理やりどこか別の地方と肩を並べようとしたり、都会の真似をしたりしても、そんなにいいことはないんじゃないか、と思っています。

個人的には、「名産品も観光地もぱっと思い浮かばないけど、何だか良さそうな土地」くらいのイメージで、島根をとらえてもらって全然大丈夫!訪れてもらったら、そのゆったりした空気にきっと、癒やされると思います。

そして、そういう「なんかいいなあ」という島根の魅力を、折に触れて発信していくのも、私たちくらしアトリエの役割なのかな、と考えています。

「風が強く吹いている」の中で灰二は辛抱強く、面倒見がよくて後輩を導くような性格の大学生として描かれています。
そんな彼が高校時代までを過ごしたのが島根だ、というのが何となく誇らしく、初めて読んだ時からずっと、この作品が大好きです。

派手さはないし、注目もされにくいけれど、気が付けばみんなを支え、背中を押してくれる…島根がもし、そういうイメージを持っているのだとしたら、すごく嬉しいです。


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