コントロード 第二話「僕の先輩紹介します」
この物語は僕が以前やっていたお笑いコンビ「ツィンテル」を結成するまで、結成してから解散に至るまでを事実7割、創作3割の割合で書いているものです。
のちの相方となる「セティ」という男との出会いは最悪だった。
舞台稽古が始まると、ますます僕はこの「セティ」という男が嫌いになっていった。
この男、とにかく、威張っている。
稽古場でも常にリーダーシップを取り、役も主役。
年下のくせにしっかり者で作家との信頼関係も強い。
弱点があるとすれば服がダサいことぐらいだ。
そんな目の上のたんこぶが常にいるイライラする状況でも、演技力抜群の僕は当然、沢山の観客から好評で舞台を終えることができた。
終わり良ければすべて良し、いつの間にか、セティとも仲良くなった。
などということもなく、特に仲良くもならないまま、数ヶ月が過ぎた。
するとある日、この奴と出会った舞台を主宰していた作家から連絡があり、「また舞台をやるので出演してくれないか」とのこと。
スケジュールが空いていることを確認し、了解の返事を送る。
稽古初日。顔合わせ。
以前から知っている者、初めて出会う者の中に、ひときわファッションセンスのない、見覚えのある男がいた。
その男、セティ。
不運の再会である。
というかそもそも「セティ」ってなんだ。
よく考えたらあだ名もダサいじゃないか。
セトという名字のあだ名は「セトっち」と相場が決まってるのになんだそのオリジナリティは。しかも「瀬戸」ではなく「勢登」と書く。変な名前だ。今では僕のパソコンでは一発で勢登と変換されてしまうけれど……。
幸い、奴と2度目の共演舞台は、四本のショートストーリーをオムニバスで上演する形を取っており、僕と奴は別チームだったので、それほど顔を合わせることもなかった。
安心していたのもつかの間。
本番中のある日。
演技力抜群の僕は、この舞台でも当然好評を得ており、この日も良い気分で本番を終えた。
すると、奴と出会った時と同じように、奴がすっと僕に近づいてきた。
こんな時はろくなことがないのだ。
「ガックン、ちょっと紹介したい人がいるんだけど」
そう言って劇場外に連れて行かれ、ある男に会わされた。
というか「ガックン」ってなんだ。
僕の名前は「ガク」だ。
「ガク」に「君」を付けたら「ガクくん」であって、「ガックン」ではない。
「ガク」の「ク」の部分を利用して「君」の「く」の字を端折ってやがる。
ふざけやがって。
呼ばれてついてゆくと見知らぬ一人の男がいた。
奴の大学の先輩で、一緒に芝居をやっていた仲間だと言う。
その男が一体この演技力抜群の僕に何の用だ?
奴は「こちら、ガックン」と僕を紹介した。
奴の先輩というその男は、まず芝居の感想を述べた。
「まあ、芝居としては気になる部分もあったけど、ガックンは良かったよ。うん。」
ガックン! お前もか!
まったく、偉そうな男の周りには、同じような人間が集まるものだ。
この男こそ、お笑いコンビ「ツィンテル」の前身となる5人組のツィンテルのリーダーとなる予定の、小島フェニックス、その人であった。
(第三話につづく)
お金持ちの方はサポートをお願いします。サポートを頂けたらもっと面白く効率的に書けるようofficeやadobeのソフトを買う足しにしようと思っています。でも本当はビールを飲んでしまうかもしれません。