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コントロード 第十七話「ダジャレ職人」

イタリアのダジャレばかり言うネタはとてもウケた。

今まで自分たちが作ったネタとは明らかに一線を画すウケだった。

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↑ダジャレネタ一番最初のバージョン。ご興味のある方はご覧ください。


僕たちは初めて、同じタイプのネタを作り始めた。

韓国やインド、ハワイや沖縄、お酒や相撲など、様々な場所やトピックを特定した言葉でダジャレを作り量産した。

この作業は正直言って楽だった。

今までの0から1を生み出す作業がいらないからだ。

ネタにする場所や項目だけ決めたら後はワードを書きだしてそれで一つ一つダジャレを考えて行けば良い。できあがったらそれらを無理やり繋げてストーリーを作る。今までのネタ作りと比べたら単純作業で、やることが決まっている、それでいてライブでのウケは良いものだから、こんなにありがたいことはない。

ストーリーなんてあってないようなもので、僕に好きな子ができてそれを励ますセティ、僕はウジウジと後ろ向きなことを言ってセティが怒る、改心する僕、という構図は大体いつも決まっていたので、必ず使える言葉がいくつかあって、

がんばれ(イタリア:ボンゴレ、中国:あきラーメンな、相撲:モンゴるんだetc)

肯定する言葉(イタリア:マルゲリータ、韓国:ユッケー、犬:マルチーズetc)

クヨクヨする言葉(イタリア:リゾットするよ、韓国:チヂミあがる、沖縄:ちゅらいetc)

これらの言葉にその時できた他のダジャレを適当に足してゆく。

さらにウケが良く味をしめた僕らは二つのトピックを繋げて2話構成の一つのネタにする方法もあみ出した。このおかげでダジャレネタさえ作っていれば1つのトピックで1分ネタ、2つで3分ネタ、ドラマ部分を丁寧にやって5分ネタと3種類のネタを自動的に量産することとなった。こんなに効率の良いことはなかった。

この形で2度目のオンバトも前回の5位から3位にランクアップしてオンエアされ、マネージャーからもダジャレネタを作れと指示が出て、演技力を活かしたコントが持ち味だった僕らは、その真逆とも言えるダジャレ職人のようになっていった。

実にその数13個。(イタリア、韓国、中国、インド、沖縄、アメリカ、ハワイ、相撲、犬、お酒、お菓子、音楽、絵画)1つのネタに15個以上のダジャレが入っているわけだから数ヶ月で200個以上のダジャレを量産したことになる。

あまりにも同じストーリーのダジャレネタばかりやるものだから、たまにイタリアをやっている時に韓国のダジャレが出てきてしまったり、別のダジャレが頭によぎって止まってしまったりして、これを僕らは「ザッピング現象」と呼んでいた。


ネタというのは、当時と比べると今はネットが発達したので異なる部分も多いだろうが、世間に浸透するまでにどれだけ早くとも半年くらいの期間を要するというのが僕の予想だ。

良いネタができる。まずは一緒にライブに出ている芸人に評価される。それをライブや楽屋などでイジられたり褒められたりしているうちに1ヶ月ほどでお笑いファンのライブのお客さんに浸透する。それからなんらかのテレビ番組のオーディションに行き、収録をし、オンエアまでに約2ヶ月。いくつかの番組でピックアップされて口コミで広がり、ようやく全国のお笑いファンでない人に「あのネタの人たち」と認識されるまでで約半年。

ただその分芸人側からしてみるとかなり前に作ったものが浸透し始めるとそのネタばかりをやらなくてはならずジレンマも生まれる。お笑いファンにしてみれば「またこのネタ?」という気持ちでも知らない人達にとっては「あのネタ見たい!」であるし、本人たちがやりたいかどうかもまた異なる。このあたりのバランスをどう取るかも重要だったりする。さらにネタ番組が少なく、あっという間にyoutubeで広まってしまう現在では一発で印象付けなければならない上に消費されるスピードも速いという、まるでかっぱ寿司のような、若手にとってはなかなか難しいご時世だと思う。

僕らもこのダジャレネタができてから世間に広めるための最初のチャンスをつかんだ。

今までどちらかといえば苦手だった1分ネタが量産できた僕らは、フジテレビのある番組のネタ見せに通ることができたのだ。この頃、ウンナンの内村さんがMCで、しずるさんや我が家さん、フルーツポンチさんなど「爆笑レッドカーペット」で人気になった若手芸人たちがレギュラーとなった「爆笑レッドシアター」がやっていて、その中の若手芸人コーナーの「ホワイトシアター」に出られることになったのだ。

ついにあの内村さんにネタをみてもらえる機会がやってきた。

お笑いを始めてたったの1年ちょっと。

僕らは順調だった。

だが、ヒットするネタはそう簡単にはできるものじゃない。

時代やテレビ番組の流行りなど様々なことに左右され、スターダムをつかむためには運も大変重要だ。

これからの1年が後にどれだけ重要だったかを知るのは、これからずっと後のことだった。

(第十八話につづく)



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