コントロード 第四十五話「ウッチャンのふるさと②」
「ツィンテルの地方営業は、他の芸人さんの地方営業とちょっと違う」
そうマネージャーから言われていた僕らの地方営業だが、他の芸人さんの営業がどうなのかはわからないが、おそらくこういうことなのだと思う。
基本的に地方営業というのは、お祭りやイベントがあった時に、そのイベントの人集めとしてスターを呼ぶ。チラシやホームページにもその名前を載せて、「あの人来るんだ! 生で見てみたい!」と集客に繋げるために呼ばれるのだ。おそらく構成としてはイベントのどこかのタイミングでオンステージがあり、ネタやトークをして、その後サイン会などが開かれたりするのだろう。その後もホテルや東京に帰るまでにお客さんに会ったらファンサービスをして握手をしたりサインをしたり。多分そんな感じだと思う。
ところが僕らの地方営業は違う。
なぜならそもそも僕らを呼んだところで集客には繋がらない。売れてないんだから。地元の方との繋がりで、同郷のセトさん家の魚屋の倅が東京でお笑い芸人やってるらしいから使ってあげよう、という形で僕らは呼んでもらうので、ポジションとしてはどちらかというとローカルタレントに近いのだ。
そうなるととにかく働かされる(笑)
そして僕らももちろん集客が出来ないのにギャラを頂けるわけなので、なんとか取り返そうと愚直に働くし、僕らにとってはそれが楽しくもある。
結果として僕らは朝から晩まで馬車馬のように色んなことをして、帰る頃には「あしたのジョー」みたいに真っ白に燃え尽きて家路につく。
その点がマネージャー曰く「他の芸人の地方営業と違う」ところなのだと思う。きっとマネージャーもしんどかったに違いない。ありがとうHさん。
きっと売れっ子芸人の中にも、これから売れっ子になる予定の芸人の中にも、そんな営業をやった経験のある人はいると思うんだけど。
ウッチャンのふるさと、ここ人吉のお城まつりでの営業も例に漏れずそんな営業だった。
日中はメインステージのMC。
たくさんの伝統舞踊や地元の若者たちのダンスチーム、マスコットキャラクター、キャンペーンガールやボーイたちの任命式、すべてを紹介し、原稿をナレーションなどする。ひとつひとつの演目が終わったら登壇して出演者にインタビュー。合間に人吉の市長さんなどにもご挨拶をさせて頂き、時間になったら自分たちのネタのステージ。地元の焼酎の銘柄のダジャレネタだけはウケると思っていたらそこまで浸透していないのかそんなにウケず。「話と違うじゃないか!」とそれも笑いにしようと頑張って、次の演目に進める。
日中のメインステージが終わったら夕方からはパレード。
街のメインストリートではたくさんの団体が練り歩く。よさこいのチームやダンスチーム、太鼓のチーム、鎧甲冑を着込んだ方々などなど。かなり長い通りなのでこれが何時間も続く。その間僕たちはマイクを持ってそれらを中継したりチームのお一人をピックアップしてインタビュー。僕たちの声がストリートのスピーカーから聞こえるのだが、果たして誰が聞いているのかわからない。それでも頑張って中継をして慣れないながらも盛り上げる。中には「いつも駅前で殺陣を披露している地元では有名な素人さん」とかわけのわからない怪しい人もたくさんいる。そんなローカル感が僕はたまらなく好きだったりする。
二日目もステージでMCをやり、夕方からはやはり色んなイベントが開催される。なんかよくわからない自作の人力車レースだったり、バトン代わりになぜか米俵を担いでの競争だったり、こちらも由縁は全くわからないがローカル感溢れるイベントをわけもわからず全力で実況する。実況なんてしたことないのに。
それが終わるとかなり深い時間になり、ここから二日目の最後のイベント「仮装大会」が行われる。やはり地元の方々が、中には決してクオリティの高くない仮装を身にまとい、僕たちはそれをどう面白くするかに躍起になった。なぜこれを祭のラストに持ってきたのか謎である。昨日パレードに出ていた殺陣の上手い素人さんはやっぱりここにも参加して、面白く盛り上げるのはすごく難しくて、だけど楽しくて、本当に思い出に残っている。もはや人吉は僕の第二の故郷と言っても過言ではない。
3年もやらせてもらったものだから中にはこんな僕らのファンになってくれた方もいたり、1年目の時中学生だった子が女子高生になって女らしくなっていたりするのを見ると感慨深かったりする。
そんなこんなで暑い中、毎年朝から晩まで働くものだからスタッフさんと仲良くならないはずがなく、すべてが終わってからみんなで飲む酒の旨いことといったらない。もはやゲストの感覚は一切なく、祭りの実行委員の意識さえある。
未だに連絡を取り合っている人吉の皆さん。
内村さんの故郷で行われるあの祭が、僕らには本当に楽しかった。
ありがたい限りである。
球磨焼酎、みなさんもぜひご賞味あれ。
さて、そんな楽しい思い出だが、祭が終わると僕らにはもう一つ楽しみがあった。
それは、お祭りのことを内村宏幸先生、ウンナンの内村さんにご報告をすることだ。
毎年祭が終わってから、前説やネタ見せなどで会った時にお二人にこのことを報告する。
「今年も行ってきました!」
「今年もめちゃくちゃ働かされました!」
「仮装大会ってのがあってクオリティが低いんですよ!」
「なんか殺陣の上手い素人がいるんすよ!」
そんな話をすると、お二人とも本当に嬉しそうに楽しそうに笑ってくれる。
その笑顔を見るのが毎年楽しみでならなかった。
今年はどの話をしたらウッチャンが喜んでくれるだろうか。
そんなことを毎年考えていた。
ウッチャンが繋いでくれたご縁。
ありがたい限りだ。
解散する少し前にライブの企画でよくある「相方のことどれだけわかってるか」を当てるゲームで、
「今までで一番楽しかった仕事は?」
という質問に、僕らは二人とも即決でフリップに「人吉のお祭りの仮装大会」と書いた。
最初の年に頂いた、3年間フルに活用した赤い祭の法被は、今や僕にとって戦闘服である。
(第四十六話につづく)
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