コントロード 第五十四話「明るすぎて怖い人~与座よしあき先輩~」
解散について考え始めた僕だが、芸人時代の回想録を進めてゆくうえで、触れずにはおけない先輩がいる。
与座よしあきさん。
与座さんは、元々ホーム・チームというコンビをやっていて、相方の檜山さんと与座さんはたしか僕らがまだマセキに入る前にもライブでMCだったので絡ませてもらったことがあった。
まだまだ平場の立ち居振る舞いがわかっていなかった僕らに、舞台裏のベンチで檜山さんが
「なんでも良いから前出てこい。そしたら俺らがなんとかしてやるから」
と言ってくれて、ものすごく頼りになってカッコよく見えた。
その横で与座さんはニコニコとただ笑っていた。
ホーム・チームさんとは最初の頃はありがたくもとにかく絡みが多くって、ライブでも楽屋でも配信の仕事やプライベートでも大変お世話になった。単独ライブのお手伝いも何度かやらせてもらったし、いつかのホーム・チームさんの単独ライブの昼間には若手との合同コントライブをやったこともあった。檜山さんが書いた留学生のネタを与座さんとツィンテルの三人でやらせてもらったり、ラストのネタに僕の書いた本が採用されて嬉しかった。それは「人生の分かれ道」という、〇〇年後の自分がどんどん出てくるというSFネタで、結構気に入っている。ウケはイマイチだったけれど。
なんというか、ホーム・チームさんは入りたての頃は僕にとってマセキの象徴的な存在だった。
それから、残念ながらホーム・チームさんは解散してしまい、与座さんはピン芸人となり、そうなってからもなにかとお世話になっている。
与座さんという人は本当に元気をもらえる人で、沖縄生まれだからか、僕にとっては太陽のような存在だ。
ネガティブなことも一切言わないし、僕なんかの話でもいつもニコニコと楽しそうに聞いてくれる。こんなにも明るい人間には出会ったことがないくらいで、明るい人間というのはそれと同等の悲しみを背負っているというのが持論の僕にとっては、与座さんはどれだけの悲しみを背負っているんだろうと末恐ろしくなる。
それを裏付ける伝説として、よく檜山さんが学生時代などの武勇伝を話してくれたんだが、話の最後にはいつも、
「でも怒らせて本当にヤバいのは与座の方だ」
と言っていて、なぜか納得してしまった。怒ったところを見たことがない与座さんが怒ったら、マジで殺されかねない気がする。与座さんは本当に底の知れない人だ。
遊びにもよく行かせてもらった。
与座さんの話はいつも楽しく、面白いうえにものすごくカラッとしているので、正直ほとんど覚えていない。
唯一覚えているのは、一緒にドライブに行ったことがあって、与座さんはドライブが好きらしいんだけど、前を走るタンクローリーを見ながら、
「あのタンクローリーの後ろの鏡みたいになってる所を見てると吸い込まれそうになるんだよね。車で突っ込みたくなる」
と言っていて、マジでこの人に運転させたら危ないと思った。
この人は本当にやりかねない。
覚えているのはそれぐらいだ。
あんなにキャッチーな見た目で、ものすごいグロテスクなネタをやるのも狂気的だし、もう会ってから10年以上経つのに未だに与座よしあきという人間の底が知れない。
マセキの先輩の中でも一番ご飯に連れて行ってもらったり解散後もお仕事でご一緒している先輩だ。
役者もやられているのでいつか舞台でご一緒できればなあと切に願っている。
そんな先輩が先日、ニュースになった。
その前の日くらいにTwitterを見ていて、あの太陽のような先輩が他の方へのリプライとして「調子が悪いので辞退させてください」というようなリプライを返していて、なんだからしくないなと心配していたんだけれど、コロナウイルスに感染したというニュースは本当にゾッとした。
病気の全貌もまだまだわからなかったし、正直ああいう誰にでも愛される人こそ縁起でもないようなことになってしまうというのはあり得る話だと思って、心配でたまらなくて、すぐにLINEをしたけど全然返って来なくって、いてもたってもいられなかった。
このままでは与座さんとの最後のやり取りが3月にしたLINEの、
「がくとも久々に喋りたいなー うんこの話とかしたいなー」
になってしまうと思った。
それから一週間が経って、ようやく与座さんから返信があった時には、家で一人で安心して涙が出た。
そして
「今ではひとりでうんちできるようになったよ」
と返ってきて、マジで僕の涙を返してほしいと思った。
元気になって本当に良かった。
また近いうちにうんちの話をしましょう。
(第五十五話につづく)
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