テスラは自動車をどうDXしたのか?22-10-29
テスラは革命的な車の設計・製造・販売をしており、正にDX。デジタルトランスフォーメーションの見本とも言うべき存在。
そこでテスラのDXを、多方面から様々調査したのでまとめる。
■目次
テスラと既存自動車メーカーと何がどう違うのか
各社のビジョン
設計・構造・技術
生産・製造
販売・営業
既存自動車メーカーがどうすべきか
テスラと既存自動車メーカーと何がどう違うのか
ベストカーWebのテスラユーザーの声をご紹介
「車以上の存在。ライフスタイル」「動く家電」「タイヤのついたスマホ」「自動車ではない」「未来を期待させる」
一方でこれまでの自動車の価値感では、テスラは見劣りする声もある。「遮音性が悪く、乗り心地も悪い、内装もチープ」しかしテスラは選ばれる。
「ジャガーと比較したがジャガーは自動車の域を越えなかった。」
遮音性が良く静かで乗り心地も良く、内装も高級感がある。しかし選ばれない
テスラの価値は従来の車の価値とは異なる大きな魅力を持っていることがわかる
出典:ベストカーWeb https://bestcarweb.jp/feature/column/373460
各社のビジョン
トヨタ :未来のモビリティ社会をリードし、人々を動かす最も安全で最も責任のある方法で世界中の生活を豊かにする
ダイハツ :世界中の一人ひとりが自分らしく、軽やかに輝くモビリティライフを広げる
VW :より高品質な車を、適正な価格で、より多くの方々にお届けする
テスラ :持続可能エネルギー社会への変換を加速させる
自動車会社ではなく、脱炭素を目指すエネルギー会社である
そのためテスラは、テスラモータースからテスラに社名も変更している。
次世代エネルギーへの転換を目指し、その為にEVへの転換を促す。
そのために必要なことを徹底的に考え抜き、足りないものは全てテスラ自身が垂直統合で高次元に解消しました。
垂直統合とは
垂直統合とは、一連の流れ(サプライチェーン)において、前の工程や後の工程を自分のところでやれるようにすること
ホンダや最近ではトヨタも自前主義的ではあった。ただしサプライヤーで作っていたものを、自動車会社で設計生産するという、ユーザー視点だと生産場所の違いだけ。それもすごいことであるが、テスラは違う。
テスラは常に破壊的イノベーションを伴う
モータ、バッテリ、ソフトウェア、ECU、エアコン、シート多岐にわたる。特徴的なECUと半導体。バッテリーをご紹介。
半導体も自社開発
世界的に半導体が不足している
トヨタは毎月のように半導体不足で工場の停止を発表している。
半導体は主にECUの中にあり、一般的な自動車はECUが30~100個ある。またそのECUと半導体も各々のサプライヤーが存在し、その内一つのECUのたった1つの半導体が不足するだけ、車は作れなくなる。
一方テスラは、そもそもECU(車両制御用コンピューター)が5つしかない。ECUも自社設計。半導体さえも自社で設計している。半導体の製造は委託しているが専用の製造ラインを確保している。
さらにテスラはそれでも半導体が不足した時の代替え半導体に対応するために、「我々の開発チームは、半導体不足から引き起こされる製造の問題について対応するために、これまでにない取り組みを開始している。我々のエレキとファームウエアのチームは、19もの新たなコントローラーを用意し半導体不足に対応するために鋭意、設計や検証に取り組んでいる」
従来の自動車会社では、100個のECUの中の各半導体の仕様が変わってしまった場合など、仕様が多すぎて検討できないし、それを全てのサプライヤーに依頼してから情報を吸い上げての対応になり、時間もかかりすぎる。到底同じ対応できない。
出典:https://news.yahoo.co.jp/articles/5270acb560054623b623aa1aff4facaa02fe363d
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01268/00041/
バッテリー
もともとはパナソニックが設計・生産していた。
それを2020年に「バッテリーデイ」と題して、世界に自社開発バッテリーの構想を発表した。採用されたのはつい最近2022年。車種や生産工場違いで一部の車種から。
4680は直径46ミリメートル、長さ80ミリメートルの円筒形電池で、EV生産の低コスト化と航続距離のバランスの最適化を目指すテスラが考案した。電池を大型化することで1本当たりの電池容量を従来製品の5倍に高める
他社も含めて従来は小さなバッテリーを一つの箱にいくつも詰めて、その箱を車体に搭載していた。
このバッテリーを床下に敷き詰め、車体の骨格そのものに樹脂で固めてしまう。車体構造と一体化すること軽量化と高剛性・低重心を実現する。これにより、劇的に運転時の質感、乗り心地、思い通りの操作、静かさが向上。そして、軽量化による燃費改善、材料削減によるコストダウン。多くのメリットが享受される。
この一体化は電池の構造を自前で把握していなければ到底できず、垂直統合のテスラならではの離れ技だと言える。
デメリットは電池を交換できないこと。それは次で説明します。
出典
https://blog.evsmart.net/tesla/battery-day-review-by-dr-amazutsumi/
出典:https://carbuzz.com/news/strange-tesla-model-y-body-suggests-new-ev-breakthrough
出典:https://carbuzz.com/news/strange-tesla-model-y-body-suggests-new-ev-breakthrough
修理ができない
ギガキャストは修理できない。アーク溶接で修理できるともあるが、日本のテスラ認定修理工場のB-rightによると、ほぼ全損扱い。
車が出来上がってきてから、さてどう修理すればいいかいっしょに考えてください。と言われたという。
更に最新の4680バッテリーは床と一体で樹脂のガチガチに固められている。バッテリーも劣化、不具合があったときに交換できない。
テスラは修理やバッテリー交換しない車を作ればいい。という考え方。
バッテリーの場合これまでの車両から集めたデータによると、容量が8割に劣化するまで24年。アメリカの平均走行距離3万キロだと、72万km。つまり交換不要だとわかっている
各主センサ、自動運転の精度の良さもあり、全米でもっとも事故になりにくい車はテスラが上位を独占。
例えUFOが急に道路の真ん中に降りて来ても事故になってはならない」-イーロンマスク談
出典: バートチグサの未来想像パークより(元テスラ社員)
https://www.youtube.com/watch?v=9cu61MH15N8
https://www.youtube.com/watch?v=AeVArIP4Kmk
安全への仕掛けと、自社の自動車保険
事故を防止するには車両側だけでなく、ドライバーによる要因が非常に大きい。そのためテスラは保険も自社で運用し、それを利用して自然に安全運転を促す仕組みを作っている。
ドライバーの運転をセーフティースコアで点数化して、ドライバーに知らせる機能がある。
これはコネクテッドで常にユーザーの運転状況がわかることと、集めた情報でどんな運転が事故につながりやすいか統計をとり、それを採点基準としている
それをテスラは利用して安全運転の点数評価をします。その点数によって、安全なドライバーであればテストリリースの最新の自動運転機能が使えたりするそうです
保険料もこの安全の点数が高ければ高いほど安くなるようになっており、どんどんドライバーが勝手に安全運転する仕組みになっています
車のソフトウェア、ハードウェアだけでなく、保険など車を取り巻く環境さえも垂直統合してしまうのがテスラの特徴
出典: https://www.youtube.com/watch?v=JsXdtzD9kUk&list=WL&index=2
車体も常にバージョンアップ
テスラは車体もソフトウェアと同様に、常にバージョンupしている。
アメリカの分解調査会社によると、4か月間になんと13個の顕著な変更がされていたこともあったとのこと。
車体の骨格について、2020年に発売のモデルYは従来の他の車と大きな差はなかった。それが翌年にRrの70の部品を左右のたった2つのギガプレスといわれる大型アルミ鋳造品を採用。さらに翌年の今年は1つのRrフロア、Frボデー、そしてバッテリー一体型のフロアに進化。たった3年で超劇的な進化をしている。
テスラ元社員のバートチグサさんによると、
「もともと車体もドンドン更新されていくこと前提で設計されている。日本は古い意味での品質に関して「完璧主義」なところがあるのだと思います。しかし、「完璧」の作り方はもう何年も前に変わってしまったのですね。今の完璧は、走りながら常に改善を続け、「モデルチェンジ」など待つこと無く、どんどん実装する。初期設計の時点から、「全てが変わる前提」で行う。自動車をソフトウエアの様に作りアップデートやアップグレードを繰り返す。そうして完璧を追求するのです。それはなぜか?それは「完璧」というステートはそこにじっとしていないからです。ユーザーが求める「完璧」は常に動いているムービングターゲットである」
テスラ以外の従来のカーメーカーは、この規模の変更はフルモデルチェンジで織り込まれていく内容で最低でも4年以上かかる。一年ごとのテスラの大きな構造の更新はあり得ない。
出典:https://www.youtube.com/watch?v=tzkkGx_8oto&t=4s
出典:https://www.youtube.com/watch?v=tzkkGx_8oto&t=4s
次元が違う「カイゼン」速度
「カイゼン」はトヨタの一番の強味。現地現物で情報収取して、問題を把握し、小さなことでもすぐに改善する。それを積み重ねて、効率的な設計・製造・販売を実践してきた。
しかしテスラはその速度も量も進化の量も全く違う。
テスラはシリコンバレー的な考え方とよく言われる。ソフトウェアの世界では致命的なバグ出なければ多少のバクがあってもリリースする。そのあとにアップデートして対応する。ハードウェでも同じです。
そのため、日本の自動車会社に勤める私としては、ちょっと乱暴で荒いやり方だと思っていた。
しかし、モノづくりに完璧などありません。常に何かを改善して、次の商品はもっと良いものを提供する。これは当たり前の考え方で、トヨタの改善そのものです。
この「今」がテスラと従来の自動車会社との大きな違いです。テスラにとっての「次」とは、常に今すぐ。我々従来の自動車会社の「次」とは「次のモデルチェンジ(大体4年)」
テスラは常に完璧を追い求め、その変化の速度を前提に企画・設計・製造されている。そのためにユーザーからコネクテッドで常に1次情報を集めて現地現物している。
私たちは最低4年はないと車体の骨格は変えられないと思いこんでいる。ユーザーに直接インタビューし、実物を目で見ないと現地現物でないと思っている。
新規工場を次々に建設しているテスラだからできる。我々は従来の設備を使わなければいけない。だから出来ない。言訳は色々ある。しかし、その言い訳はユーザーにとってどうでもよい。より良い車を購入するだけ。
製造のDX
これは想像でしかないが、おそらくそうだろうと推察している。
テスラの中国工場の立ち上げはなんと着工から1年。この工期の短さを支えているのは、正にDXではないかと思っている。
恐らく仮想現実に工場を持ち、現実工場での工程改善をデジタルで試行し、実際の工場へフィードバック。何が重要で、何が些末か、不要かのPDCAサイクル「カイゼン」を繰り返している。そのため、テキサス工場の生産車よりも、中国生産車の方が組付けの精度が高く、建付けの改善でドアとボデーの隙が均一制が増している。
そしてこのデジタルでの工程改善を容易にしているのは、ギガプレスによる部品点数の削減と考えられる。
ギガプレスとは超大型アルミダイキャストのこと。ミニ四駆でいうシャーシの部分を、正にそのようにアルミの1つの大きなアルミの鋳物で作ろとうしている。
今はその途中で、車体の後ろ側だけ。それでも70部がたった1部品に。それによってボディ工場サイズ30%削減。ロボットの数を1000台も700台まで30%削減した。
さらにいまでは、前方もギガプレスに置き換わり、床下も一体化。している。
徹底的に部品点数を減らし、人が介在する工程を減らす。つまり自動。
自動であれば、全てプログラムによってコントロールされる。そのためデジタルでの試作も出来るようになっているのではないか?と推察する。
これが正にテスラの真骨頂とも言え、イーロンマスクも一台の素晴らしい車を作るのは楽しく容易。しかし量産することは地獄だ。と言っている。
営業・販売のDX
テスラは広告費ゼロ。ディーラーもなし。
オンライン販売のみ。当初ディーラーもあったがオンラインでの発注が7割以上であることで、完全廃止を決定。
これを支えるのはCEOのイーロンマスクの姿勢と実績。常に有言実行。EVに対してカスタマーが持つ不満を徹底的に解消する車を出したこと。これにより、SNSで情報が勝手に拡散され、ブランドが構築され、試乗もせず、現物も見ず600万円以上の買い物を「ポチって」もらえる。
これはブランド力に他ならない。
ではどんなメーカーもオンラインだけでやっていけるか?というとそれは難しい。
既存メーカーにこれほど、ビジョンが明確なメーカーはないだろうし、メッセージもない。
既存自動車メーカーが今から全てのディーラーを廃止して、現物を体感しない販売にできない。しかし見習って会社のビジョンを明確に示し、実績をしめし、ユーザーに共感を得て、ブランドを構築していく努力はしなければいけない。
ディーラーは減らして行かざるを得ないのかもしれない。
テスラのビジョン共有
テスラはビジョンを共有して販売している。それはユーザーだけでなく従業員でも同じ。昼食時間にテスラグッズに列をなしてレジに並んでいる。テスラに貢献していることが、テスラ社員のモチベーションになっている。日本では自動車会社だけでなく、ほとんどの会社でこのような社員のモチベーションは聞いたことがない。
既存自動車メーカーがすべきこと
テスラを全面的にまねすべきか?例えば、今の工場を捨てて新しくギガプレスを採用すべきか?それは違うと考えます。
先ほどは言訳と言いましたが、実際今の既存工場があり大量生産していて、簡単に変えられない。大きな設備の変更が必要で、そのために工場を長期間止めなければならず、キャッシュフローも考慮し、もちろん巨額の投資も必要になる。しかし、成功する保証は一切ない。まさイノベーションのジレンマ。
その時にわたしはまず、ユーザーの困りごとを解消することを改めて考えるべきと思います。
テスラは徹底的に既存EVの困りごとを高次元で解消にこだわりました。それはテスラが次世代エネルギーへの転換を目指し、その為にEVへの転換を促す。そのために、既存のEVが持つ潜在的な不満の解消を徹底的に考え抜き、必要なことは全てテスラ自身が垂直統合で解消しました。
この姿勢が既存自動車メーカーにもとめられてと思います。
例えば東南アジアでは、自動車は安価で丈夫な日常の足。このお客さんの困りごとを解消することに徹することです。車を持つことも難しい人たちは、動くスマホ、更新される機能、未来を感じるは、必須条件ではありません。
つまり、私の言いたいことは、誰に何の価値を提供するか?を改めて徹底的に検証し、その解消に必要なことをゼロベースで考えるべきなのだと思います。
そしてこれは、社長や経営層にしかできないこと。つまりそれはDXであり、事業構造改革なのだと思います。
以上
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