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空の底

先日、鳥取砂丘で見た景色。
前日まで一面銀世界だった砂丘には、雪が溶けて大きなオアシスが広がっていた。エメラルドグリーンに輝くそれを見たのは初めてのことだった。
私はこの光景が昔、夢の中で見た"空の底"に近いものだと思った。

過去のブログを漁っていたら、その夢のことを書いていたものが残っていた。

見下ろした景色は、空の底のようだった。
見下ろしているんだけど、見上げているような錯覚になる。だまし絵のような世界。
青々とした木々の中心部に小さな湖。
その水面に映る空は、雲の流れを時の流れを映し、1秒たりとも同じ表情は無い。

シチュエーションも目前に広がる色も全く違うんだけれど、私は、何故だか"空の底"にいるような感覚になったのだ。

オアシスの近くまで足を運んでみる。

当時の空は、雲が多く灰色に染まっていた。雲の合間から光が漏れ、白・黄色・オレンジ・ピンクが所々にチラつく。これから少し晴れ間が見えそうな雰囲気の空。

水面の色は、そんな空に影響されたような不可思議なエメラルドグリーンだ。頭上から溢れでた光が水面にちらつき、その表情を見続けていると、現実なのかどうかも分からなくなる。


「このままでは時間が喰われてしまう。」と思い、砂丘の天辺である馬ノ背まで登った。入院前検査から帰りのバスまでのわずかな時間だ。そもそもの時間は無い。

強風に煽られながら日本海を見渡す。荒々しいほどの深い青が広がる。冬の日本海は、藍に近いような色合いだ。日が暮れれば、漆黒に染まるんだろう。

くるっと背を向いて、馬ノ背からオアシスを見下ろす。
砂色の世界に突如現れたエメラルドグリーンを不思議な気持ちで見つめてしまう。


"空の底"って何色なんだろう。
という質問を問いかけたところでこれといった回答はなく、感じる色なんて千差万別だ。

ただ私は、通常の空では見られないこの色が"空の底"で見られると良いなぁ、と。

そんなことを思ってしまったのだ。


カメラを構えていると、強風に襲われる。
ポケットにしまい込んでいた駐輪場チケットが砂上に散る。
行方が分からなくなったそれを探そうとするも、残された時間はわずかだと腕に巻いた時計が教えてくれる。
「仕方ないな」と諦めて、馬の背を降りる。
横目に見える"空の底"を眺め、「次に拝めるとしたら何色になるんだろうか。」とつぶやきながらその場を後にした。


*****


後日、「どうしてあんな色だったのか」と調べてみると、「泥の黄みがかった色が加わり緑色になる。」という知見を得た。
砂と雪解け水が合わさって、あんな色になったんだろうか。写真では残せない不可思議さがあったんだ。その色を残すことは出来なかったんだけど、私はこの写真を見るたびに「あぁ、これよりもっと不思議な色を見たんだっけな。」って思い出すんだろう。それだけで十分なことのように思う。

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KURATA yumi / KurAruK
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