竹久夢二・作品にみる独特な手指の形
大正ロマンを象徴する総合芸術家、竹久夢二は、明治17年(1884年)に岡山に生まれました。早稲田大学に進学して東京に移り、明治42年(1909年)に出版した「夢二画集 春の巻」が人気となり、「夢二式美人」が全国に知られるようになりました。
「夢二式美人」は、S字のラインの身体に心情を表す目・手・足が大きく描かれた独特の女性像でした。
筆者は、従来言われていた特徴以外に、手指の形に独特の表現があることに気付きました。それは、中指と環指とをひっつける手の肢位です。以下に、作品所蔵元である、竹久夢二ショップ・ギャラリーメリーノ(倉敷市阿知)の許可を得て、主な作品を供覧します。
(肢位:体のそれぞれの関節部分において形作られた角度や位置のこと)
夢二作品が多くの残る岡山で筆者が耳学問した範囲では、今まで、認識されていないようでした。
指先の形を大切にするバレエでも同じ手指の表現はなく、手を側面(矢状面)からみると指が重なるので、むしろ、避けられている肢位です。
フランスの美術専門書をみても同じ形はありませんでした。
・・この指の肢位の意味について、筆者なりに考えてみました。
この肢位は、機能的ではなく、手を使って動作をするときには、不自然な仕草です。自然でないので、意識的な努力をしてやっと保つことができます。
筆者は、この「意識的な努力をして保つ」ところが重要ポイントであると思いつきました。
人は自分が実際に動作をしなくても、他者が動作をしているのを見ると、脳のミラーニューロンが活動します(実際の人の動作を見るだけでなく、画像を見ても反応することが認められています)。ミラーニューロンは、視覚システムと運動システムとを結びつける中継点の役割をしているとされ、人が他者の動作を見て、それを模倣して学習するときに役立っていると考えられています。
この不自然な指の肢位を見たとき、観察する人のミラーニューロンが活動し、不協和な運動イメージが活性化され、いわゆる胸にざわめきが経験されるのではないか?そうして、絵の人物に謎と妖艶さを感じるようになるのではないか?
・・天才が遺した、隠された巧妙な仕掛けに感じ入った次第です。
さて、現在でも同じ効果を狙っていると思われる人物を発見しました。
それは、ロックミュージシャンであり、シンガーソングライターであり、俳優であったデヴィッド・ボウイ(1947ー2016)です。
デビッドボウイの大ファンである刺繍作家のヨシコ・ミュアさんが、ボウイへのオマージュを込めた作品を観てみると、両手の示指(人差し指)の肢位が不自然なのが、忠実に再現されています。
それを見る私たちは、不協和感を覚え、ボウイが秘めている、正体がわからない神秘性に魅了されることになります。