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市 あきら子 さん

倉敷美観地区にほど近く、かつて伝説の喫茶「サロニカ」が存在しました。故・橋本龍太郎 首相は、岡山に帰郷した際、サロニカに立ち寄り、くつろぎの時間を過ごしました。

今は閉店した喫茶サロニカのマダムが、市 あきら子 さんです。現在、92歳を迎えられ、ご存命されています。市(いち)さんは、今も衰えぬ詩歌創作意欲に溢れておられ、今年、詩画集「余韻*」を出版されました。「余韻」は、洲脇ゆかこ、さんの編集によって、倉敷在住の画家、井上準三・画伯の題字と絵とが添えられています。

2021年10月30日〜11月7日まで、倉敷本通り商店街のギャラリーメリーノで出版記念の原画展が開催されることになり、会場を訪れました。幸運なことに、在廊のために来訪された、市さんご本人にお会いすることができました。

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市さんは、伝説のマダムです。杖に頼って歩かれており、脚は弱っていらっしゃるようでしたが、頭脳は明晰で、矍鑠(かくしゃく)とされていました。胸元には、倉敷の誇り、苑工房によるヤマボウシの花のアクセサリーを、身につけられていました。

ギャラリーメリーノのオーナー、清水繁子さんのご配慮により、会場の談話コーナーで市さんと直接お話しする機会を得ることができました。

その中で、市さんの俳句、

待つ身今何ならずとも竹の春

について、尋ねてみました。

竹は、秋になると新葉が盛んになります。たけのこの出る時期、竹は栄養を奪われて衰えますが、秋になると 勢いを取り戻すからです。この状態を「竹の春」と言い、秋の季語です。

市さんは、今の人は、急ぎすぎる、竹の春までじっくりと待ちなさいとのお言葉を下さいました。

市さんの身につけておられた、ヤマボウシの花は、初夏に咲き始め、冬を過ぎても咲き続ける花ですので、なんだか示唆に富みます。

市さんは女学生の時代に、軍需工場に動員され、戦闘機の部品を造らされていたのだそうです。そうして組み立てられた戦闘機が、特攻機として使われ、人の命を奪ったのを、今も悲しまれていました。

市さんは、そんな少女のままの、自分を抱きしめて、今も麗しく生きておらます。老いというのは、衰えという意味ではなく、光沢の輝きなのだと得心しました。


*詩 市 あきら子,  絵 井上 準三,  題字 井上 準三,  編 洲脇 ゆかこ:余韻.  印刷 株式会社クニフク. 2021年5月28日発行

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