見出し画像

久保田寛子さんの作品に潜在したモディリアーニのsoul~100年の時空を越えた奇蹟〜

モディリアーニは、イタリア生まれで20世紀初頭のパリで活躍した画家です。生前はほとんど評価されることなく、病と貧困のうちに、1920年に35歳の若さで亡くなっています。死の直後より評価されるようになり、1921年に日本にも紹介され、パリと同時代的に評判が高まっていました。

現在、大阪中之島美術館に所蔵されている重要作品「髪をほどいて横たわる裸婦(1917年)」は,1933年に日本の収集家の元に来日しています。

アメデオ・モディリアーニ・作 髪をほどいて横たわる裸婦1) 1917年 大阪中之島美術館・蔵

2022年4月9日~7月18日まで大阪中西間美術館開館特別記念展「モディリアーニー愛と創作に捧げた35年-」が開催され、筆者は「髪をほどいて横たわる裸婦」をはじめ、多くの重要作品の眞作を目の当たりにすることができました。

イラストレーターとして活躍されている久保田寛子さんは、国内外で数多くの受賞歴があり、インスタグラムのフォロワー数が1万5千人を超える有力作家です。現在は、軽快でユーモラスな作品を多く描かれています。

筆者が、最初に作品に接したのは、岡山市のカフェギャラリー・ネイロ堂での個展でした。筆者は、その愛らしさと寂寥感とが同居する世界観にすっかり嵌まってしまいました。

久保田寛子・作 夜の爪切り 2021年 筆者・蔵

久保田さんのインスタグラムを紐解くと、かつては、力強く重量感のある筆致や彫り跡のある、やるせなさが込められた、油彩画や版画の作品を制作されていたことを知りました。

ご本人に問い合わせましたら、まだ手元に残っている作品があるとのことで、気になった作品を何点か購入しました。

画像は、2018年に発表された「横たわる」です。

久保田寛子・作 横たわる 2018年 筆者・蔵

本作品は、MJイラストレーションブック2018年に発表されており、そのような重要作品が残っているなんて、奇跡的でした。額装して飾って観てみると、作品に強い既視感を覚えました。長い首と面長の相貌、アーモンド形の目・・。これって、モディリアーニが描く人物像ではないか・・。

モディリアーニ展の図録を見返してみると、それを確信できました。

頭の向きは左右逆になっていますが、人物の存在感や妖艶さは相同です。モディリアーニの作品の背景は、多くの場合、室内の壁になっていますが、久保田さんの作品では、窓の外に昼間の風景が描かれており、オリエント山陽の榎本美恵さんによる額装技術と相まって、奥行きや開放感が絵の魅力として新たに加わっています。

久保田さんご本人に問い合わせたところ、モディリアーニは好きだが、特に意識して描いたわけではないとの、お返事でした。・・とすると、モディリアーニが100年の時空を越えて、久保田さんに憑依して作品が生まれたのかもしれません。

筆者が住む倉敷の大原美術館には、モディリアーニの重要作品、「ジャンヌ・エビュテルヌの肖像」が所蔵されています。

アメデオ・モリディアーニ・作 ジャンヌ・エビュテルヌの肖像2)  1919年 大原美術館・蔵

作品は、1976年(昭和51年)に大原總一郎の強い意向により倉敷にやってきました(惜しくも總一郎の生前には果たされませんでした)3)。

筆者の自宅マンションは大原美術館まで徒歩5分の近距離にあります。100年の時空を越えて、21世紀の現在に、モディリアーニゆかりの2作品が、こんなにも近くで安住することになった奇蹟にびっくりしました。

追伸
岡山県鏡野町の「かがみの近代美術館」には、貴重なモリディアーニの素描作品が所蔵されています。

アメデオ・モリディアーニ・作 素描 かがみの近代美術館・蔵

辻本館長のご厚意により、久保田・作品とモリディアーニ・作品との出会いが実現しました。

久保田作品とモリディアーニ作品 かがみの近代美術館にて(2023.6.17)

筆者は、奇跡的な魂の出会いを仲介できて、とても幸せな経験ができました。


引用画像・文献
1) 大阪中之島美術館, 読売新聞大阪本社, 大阪読売サービス・編集、深谷克典, ケネス・ウェイン, 小川知子・執筆(有限会社フォンティーヌ, 飛鳥井雅友・翻訳):大阪中之島美術館 開館記念特別展 モディリアーニ~愛と創作に捧げた35年~. 読売新聞大阪本社, 2022. P114-115
2 1)P120
3) 藤田慎一郎・著:大原美術館と私ー50年のパサージュ. 山陽新聞社, 2000. P93-97


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?