宮尾昌宏さんによる備前焼の湯飲みに顕れた20世紀初頭のパリ
画像は、備前焼の湯飲みです。倉敷リハビリテーション病院の小田看護師長が、大学院への進学を機に職場を退職することになり、退職の記念に贈っていただいたものです。
器には、「景色」の中に面長の顔した女性が見えます。
最近、その女性が身近なところにいたのに気付かされ、びっくりしました。
その女性は、大原美術館の中で見つけました。モディリアーニが描いた画家の妻、ジャンヌです。面長で正面を向いて首をかしげたポーズや長い髪、閉じた口元、肩と両腕のなだらかな曲線、タートルネックのセーター、背景の壁の左右のコントラスト、が一致しています。
これは、作為のない偶然の造形美が成した奇跡です!!
器の作陶者は、宮尾昌宏さんです。1970年生まれで、福岡出身の方です。岡山県無形文化財、山本雄一氏に師事し、数々の賞を受賞されています。
モディリアーニの作品が描かれたのは20世紀初頭のパリです。
1919年のパリと2019年の岡山の間に、ちょうど100年の時を経た、時を越えたつながりが見えました。
器が生まれたとき、備前の窯と倉敷の大原美術館という、岡山県内の空間的に近い場所で、お互いが呼び合っていたのでした。今では、器を所蔵している筆者の自宅から、絵が展示されている大原美術館まで数百メートルの距離まで近づいています。
時空を越えて迫ってくる多重世界の影が、右肩から脇腹にかけて、触圧覚としてリアルに感じられました。
追伸
器は、現在、岡山県鏡野町にある、かがみの近代美術館で、美術館所蔵のモディリアーニによるデッサンとともに展示されています。
1)公益財団法人 大原美術館・編:大原美術館 海外の絵画と彫刻ー近代から現代ーまで. 大原美術館, 2016. P77