K氏のリビング展に行ってきました。
岡山市南区のカフェZ(ゼット)で開催された、「第6回 K氏のリビング展」に行ってきました。
K氏こと、川崎正博さんは、自称サラリーマンコレクターで、勤務の傍ら、40年に渡ってアートやクラフトを収集されてきました。
今回の展示のコンセプトは、最近新しく収集した作品のお披露目と、今まで収集した中で小作品を中心としたベストセレクションだそうです。
会場では、150作家、200点の作品が、壁と展示台を埋め尽くしていました。
作品は、どれも涼やかで、ずっと鑑賞していたい心地よい雰囲気がします。光沢があったり、ギラついたり、奇抜な感じは、ありません。表現が控え目で、ノングレアな感じで、それでいて、力強く、ほどよく個性的です。
川崎さんご本人に収集歴をお尋ねすると、「脚で稼ぐんですよ」との回答でした。ギャラリーや展覧会を小まめに周り、自分自身の目で実際の作品を確認し、収集されたとのことです。
セレクトにあたっては、独自の感性だけでなく、川崎さん自身が、美術教員であり、美術作家であり、木工作家であるので、専門家としての審美眼も生かされているようで、コレクションは、客観的に誰にでも受け入れらるものです。油絵と美人画は性に合わないそうで、それ以外の絵画、版画、彫刻、工芸を、特定の作者への偏愛なく集められています。
ですから、作品は、オークションで競り落としたり、画商の仲介で入手したものではありません。そのような既に評価の定まった巨匠の作品ではなくて、縁を大事にして、自分だけのナンバーワンとの出会いをかけがえのないものとして、ていねいに取り扱ってこられました*。だから全ての作品に川崎さんの愛が詰まっています。
(*ただし、川崎さんは目利きが確かなので、コレクションの中には、巨匠の無名時代の作品も含まれていました。)
この展示会をリビング展と名付けたのは、川崎さんのリビングでの日常を紹介したいとの気持ちだそうです。「身近な作家の優れた作品に囲まれた心豊かに生活することの楽しさを知ってもらいたい」、とのことで、それを十分堪能できる企画でした。
巨匠の作品と出会える有力美術館の企画展もよいのですが、川崎さんのコレクションと接すると、日常はこれでよいのだ、と思えてきます。喩えるなら、高級レストランや茶寮でいただく美食も、ごくたまにはよいのですが、城下公会堂やカフェ・モヤウの厨房スタッフが、おいしく、バランス良く、健康的であるように、地産の素材を丁寧に料理して、セレクトした民芸の器に盛り付けてくれたランチをいただく時のような、もう他を探し求めなくてもこれでいいんだ、と思える瞬間の、心の平安を伴った幸せいっぱいな気持ちです。
川崎さんの歩まれた道は、筆者の目指している世界のお手本でした。これからも縁を大切にして、自分だけのナンバーワンに出会いたいものです。
筆者は何故か、教育学部出身のアーティストによる、すばらしい作品と出会う機会が多いのですが、縁を大切にして、そのコンセプトに向かって独自にコレクションをして行けばよいのだ、と、勇気づけられました。
追伸
同会場では、川崎さんの木工展も開催されています。
川崎さんによる手の込んだ趣味の良い木製トレーが驚くほどの廉価で販売されています。川崎さんが利益を考えていないのだと思います。
追伸2
カフェZは、アーティストをカフェスタッフとして雇用し、アトリエを貸与し、作品発表の場を提供して、アーティストを応援しているお店です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?