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椎名 寛さんの作品におけるアート性についての考察
2022年6月16日~20日、岡山市北区表町のアートスペース・テトラヘロドンにおいて、椎名 寛 個展「遠近両用展」が開催されました。
展示作品からうかがえることは、椎名さんは、物理学的原理である時空と運動と力を操る人だということです。
画像は,会場で展示されていた油彩の小作品です。
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絵は、ヨーロッパの街路を描いたもので、道が右上方に延びています。道には空色のコンパクトカーが1台走っています。ところが、車は右下方にめり込もうとしているようです。見ていると違和感で、胸が圧迫される感じです。それは、空間の幾何学的性質に反する世界だからです。
時間と空間は、われわれがものを見たり、考えたりする場合、無意識のうちに前提としている認識の枠組みです。われわれは一般に、物質、空間、時間を区別して考えています。すなわち、物質は空間の中に存在し、時間を通じて持続するものである、と考えます。しかしこうは言っても、空間が何であるのか、時間が何であるのか、時間がどのように空間と違うのか、分かっているわけではありません。われわれが見たり、触れたり、聞いたりするのは物質であり、他の物質に因果的に作用するのも物質です。1) われわれは、いかに空間や時間の存在を知るのでしょうか。
・・実は、その根拠は不知だったのです。それにもかかわらず、普段、われわれは時間と空間の存在を疑うことがありません。だけれども、一旦、時間とは何か、空間とは何か、と考えると、非常にやっかいな問題になります。
椎名作品は、わたしたちの日常の認識を動揺させ、無根拠を露わにするのです。
次の作品は、椎名さんが会期中に即興で描いたものです。
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花瓶に生けられた花が描かれ、物質が静止しているのが前提の、いわゆる静止画なのですが、花瓶の中では花の茎が回転し、花々は遠心力で飛び散ってしまいそうです。静止画の常識が揺さぶられています。
在廊中のご本人に訊いてみたら、絵を描くときは、最初は抽象画として描き、後から具象を加えるのだそうです。ですから、絵の背景に認識原理に関わる表現が隠されていたのです。
椎名作品は、われわれの常識的認識をあばき、世界認識の根本的秩序に挑戦してくる、骨太なアート性を秘めています。
地上部分はつかみ所がなくて、実は、根がとても深い人、
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そ・れ・が、椎名 寛 さん。
文献
1)Hinckfuss, Ian (イアン ヒンクフス) 著, 村上陽一郎、熊倉功二・訳:時間と空間の哲学. 紀伊國屋書店. 2002, P13-15