京都、喫茶チロル〜カレーライスと玉子サンド〜
画像は、世界文化遺産・国宝・二条城の南側の路地にある喫茶チロルです。1968年の創業より、ちょうど今年で50年間、友禅職人のために早朝から店を開けてきました1)。
喫茶チロル(京都市中京区)
創業当時からのテーブルは、長年、布巾で拭かれて、ニスの塗装が剥げ、広葉樹の白い肌が露わになっています。
店内の使い込まれたテーブル
そこに、漆黒のコーヒーと白いコーヒーカップとステンレスのシュガーポットが、よく映えます。
木の白い地肌が顕れたテーブルにサーブされたコーヒー
ここは、カレーと玉子サンドが有名です。カレーは、フルーティなのですが、食べていると汗が出てきます。クセになる味で、コーラやコーヒーなどが隠し味として入れてあるとか1)。
名物のカレーライス
玉子サンドは、挟んである厚焼き玉子の断面が輝いています。そんな雅で華やかな玉子と、胡瓜の薄緑、パンの白とのコントラストがなんとも美しい逸品です。味付けはされておらず、コクのある玉子そのものの味を、食卓塩でシンプルに調節していただきます。玉子サンドは「和樂」誌2)の「THE BEST of KYOTO 100」に選ばれました。
京都100選に選ばれた玉子サンド
お店は、日曜日と祝祭日が休みなので、筆者は土曜日の昼に大阪からよく来ていました。地元の常連客もいますが、今は観光客が多い感じです。海外からの旅行者や修学旅行生もよく来ています。お店のスタッフはみんな優しいので安心です。
(2019年11月9日撮影)
引用文献
1)川口葉子・著:カフェと洋館アパートメントの銀色物語. 東京書籍, 2013, P32-36.
2)和樂の京都コンプリートガイド THE BEST of KYOTO 100. 和樂10・11号別冊付録, 小学館, 2019
番外編1
筆者は医療職ですので、感染流行により県外への移動には職場への届け出が必要でした。このたび流行が沈静化し、関西方面への移動が自由になったため、2年ぶりに京都を訪れました。
朝、倉敷を発って、まず訪れたのは、喫茶チロルです。地下鉄東西線・二条城前で下車して、西へ歩いて行くと、喫茶チロルが見えて来ました。昔と変わらないたたづまいです。感染流行禍を乗り切って無事に存続していました。
まだ11時過ぎでしたが、お店は満席でした。外の待合席でしばらく待機して、メニューを眺めていると、店内のテーブル席へ通されました。
店内は、いつのまにか禁煙になって、過ごし易くなっています。このご時世もあって会話が少なく、皆、食事に集中しています。
さっそく、懐かしの味である、カツカレーを注文しました。久しぶりなので、ちょっと贅沢をして目玉焼きをトッピングしました。
ルーは、果物の酸味とフルーティさが絶妙で、以前よりさらにおいしくなっている感じです。「うまいな〜」というつぶやきが、思わず声に出てしまいました。スパイシーさは余り感じませんが、食すとけっこう激しく発汗してきます。本格的にスパイスが調合されている証です。
伝説のマダムも健在で、カウンター内で忙しく立ち働いておられました。接客スタッフは、笑顔を絶やさず、とても親切でやさしいので、シャイな人でも安心です。順番待ちの来店者が数名居たので、食後のコーヒーを済ませ、すぐに退店しました。
久しぶりで、あわただしい滞在でしたが、とても満たされた気持ちでお店を後にしました。駅までの道すがら、「喫茶チロルよ、永遠なれ」と祈りました。
(2021年11月6日)
番外編2
京都国立近代美術館で「没後50年 鏑木清方展」が開催されたので、京都に出かけて来ました。朝から展覧会を見終えて、遅い昼食を採るのに喫茶チロルを訪れました。地下鉄東西線の東山駅から二条城前駅まで10分ほどで到着します。恵方巻きで有名な恵方社がある神泉苑を過ぎるとお店が見えて来ました。
ランチ時最後の来店者が2人ほど並んでいます。入店待ちの客への声かけも細やかです。店内は、京都観光に訪れたグループや夫婦がメインでした。
今回は、はじめてのメニュー、焼きめしを注文してみました。トッピングの目玉焼きを付けました。
お味は、卵と薄いロースハムのコクとで、とてもまろやかで、こころ安らぐ感じです。半熟の卵黄を混ぜると、さらにまろやかさが増します。かつて西陣織の織工達は、集中して繊細な仕事をした後に、こうした刺激の少ない味を求めたのだろうな、と想像しました。
食事中、お冷やが少なくなると店員さんがすぐに注ぎに来てくれ、また声かけをしてくれます。会計を済ませて、店を出るとき、「ようおいでくださいました」とねぎらいの言葉をかけてもらいました。お店は、以前にも増して、観光客に対応したサービスを洗練している感じです。
かつての常連さんには、寂しいことかもしれませんが、時代は移り変わり、地元の懐かしの味が、観光資源になって存続しています。旅先のアウェイでの、定型的なサービスや言葉かけは、旅人には身にしみるやさしさです。とても元気をもらいました。
(2022年6月11日)
番外編3
喫茶チロルのある京都市中京区界隈は、西陣織の職人が住んだ街です。繁華街や名所が集中する左京区のような華やかさや雅やかさはないけれども、やさしい、ほほえましい、かわいらしい、かざらない色彩に溢れています。
街行く人も店主も、気さくで優しい人達が多い感じです。
(2020年1月18日撮影)
番外編4
ウィズ・コロナのご時世となり、昔を振り返って京都を旅しました。地下鉄東西線の二条城前駅で下車して西へ進むと、喫茶チロルが見えて来ます。以前とまったく変わらない佇まいです。
今回、オーダーしたのは、イタリアンスパゲティ(ナポリタン)です。地上波・全国放映のテレビ番組で、タレントのマツコが絶賛して、放送直後は全国から人がこのスパゲティを目当てにチロルに押し寄せたのだそうです。
サーブされたスパゲティを食すと、ねっとり感とさわやかな酸味が相まって、複雑な味覚を呈します。瞬時に美味しいと叫びたくなるようなお味ではなくて、しみじみとおいしさが体に染み入って来て、安らぐ感じです。
先代のマダムは、今年の3月に亡くなられたそうで、今は息子さんと娘さんとが跡を継いでいます。店内は海外からの旅行者が過半を占めていて、「Would you like〜?」という、ホール・スタッフによる上質な英語で接客が行われていました。
レジ脇には、あのコーヒーカップが展示されています。
BSテレ東で毎週土曜日の夜10時から全国放映されている「飯尾和樹のずん喫茶」で、お笑いコンビ「ずん」の飯尾和樹が首都圏の名物喫茶店を巡り、取材のシメに感懐を記入して、お店にプレゼントする番組特製のカップです。昨年、特別編で京都の喫茶店を巡った際、喫茶チロルに取材があったのだそうです(2022年10月1日放映)。
お店のスタッフに撮影の許可をお願いしたら、なんと、カップを手に取らせていただくことができました。
多くの人の手に触れたせいか、飯尾和樹からのメッセージはかすれてきています。予期せず、貴重な記念品に触れることができ、お店の心遣いに感激しました。
(2023年9月8日)
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