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カミーユ・ピサロとヨシダコウブンさん

カミーユ・ピサロは、印象派の最年長で、1874年から1886年まで8回にわたって開催された印象派展のすべてに参加した唯一の画家です。

カミーユ・ピサロ「自画像」1873年 オルセー美術館 パリ 1)

最初からその企画と運営の中心にいて、野外の同じ場所で制作していたセザンヌに参加を促しました。また温厚な人柄で、ゴーギャンやゴッホなどの、他の人々から敬遠された個性的な若手の芸術家にも親しく接し、助言を与えました。
その一方で、常に謙虚に誰からも学ぶ姿勢を保ち続けました。生涯に渡って画風が変化し、独自の画風を確立すると言うよりは、常に新たな可能性を求め続けました。その個性は、さりげない、あからさまに個性を主張しない個性でした。2)

そのような、“現代のピサロ” 、と言える総合芸術家が、ケモノノスミカ工房(広島県福山市)のヨシダコウブンさんです。

ケモノノスミカ工房 ヨシダコウブン さん

コウブンさんは、岡山県や広島県東部に拠点を置くアーティスト達をとりまとめ、制作への助言と発表の機会を与えます。自らは、地元で仲間とグループ展を開催すると共に、果敢に関西や首都圏に進出して、後進のための道筋を切り拓らかれています。リーダーなのに、会場への足のない後輩のために、自ら自家用車を運転して送迎されたりします。

最近、来日したピサロの作品に「ロードシップ・レーン駅、ダリッジ」があります。

カミーユ・ピサロ「ロードシップ・レーン駅、ダリッジ」1871年 コートールド美術館 ロンドン3)

作品は、「ロンドンから郊外に延びる鉄道網」という、新しい郊外の風景を描いています。しかし、ピサロは、鉄道や汽車といった新しいモチーフのみに注目するのではなく、穏やかな田舎の町の印象を絵画に留めています。そうして、近代化の波が押し寄せつつあり、風景が移り変わる様を、折り合いよく、主題として描いています。3)

画像は、コウブンさんによる「架空動物シリーズ」の初期の作品です。

ヨシダコウブン・作「架空の動物」2016年 筆者・蔵

作品は、釉薬を使わず、素朴な感じで焼成されています。それは、ピサロの穏やかな風景画に通じるところがあります。
頭は、古くからの家畜として人類に多くの恵をもたらしてくれたヤギに似ています。長い胴体は、多産や多くの乳房による恵みを暗示します。さらにそれは、ローマ建国神話にも繫がってきて、のちに成長してローマ建国に関わる双子が、生後間もなく川に捨てられたのを救って、乳を与えて育てた雌の狼のシルエットに通じます。
いずれも誕生や、護り、慈しみ、育てることがテーマになっていて、コウブンさんが、大切な人達の無事と繁栄を願って制作されたのに違いありません。

ピサロの作品も、コウブンさんの作品も、全体との調和のなかで、テーマを追求する姿勢がうかがえます。両者とも、仲間のことを気にかけつつ、自らは試行錯誤や創意工夫を絶やさない姿勢が貫かれています。


追伸
コウブンさんの最新作では、造形がより精緻になり、骨格や筋肉の付き方がリアルです。それでも初期先品から一貫する個性は遺されていて、一見してコウブンさんの作品だと判ります。
素朴だった素焼きの肌も、多様な釉薬をパッチ状に塗布したり、塗り重ねて複数回焼成したりして,手間暇かけて凝った仕上がりに変わっています。
今まで世の中になかったグレーの釉薬も、試行錯誤の末に実現されました。

ヨシダコウブン・作「架空動物・最新作」 2022年 筆者・蔵


文献
1)クレール・デュラン=リュエル・スレノール・著(藤田治彦・監修, 遠藤ゆかり・訳):ピサロ  ---永遠の印象派. 創元社, 2014. P1-4

2)同P34

3)エルンスト・ヴェーゲリン・クラークベルゲン・他著:コートールド美術館展 魅惑の印象派. 朝日新聞社, NHK, NHKプロモーショ. 2019 , P116-117


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