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京都出町柳の松の木
画像は京都出町柳の河合橋(表題画像の右側の橋)*の欄干に生えた松の木である。
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石組の隙間にわずかに溜まった土に芽吹いて今まで長い年月を生きてきた。しかし、まったく緩みのない制限がある環境の下で、これ以上大きく成長することはできないし、常に枯死の危機にある。
私は出町柳に来るたびに、枯れていないだろうかと心配になって、確認しに訪れている。いつしか昔からの盟友のような気持ちになって、青々と松葉が茂っているのを見ると安心する。
ここは地元の人のみならず、葵祭で有名な世界遺産、下鴨神社が近くなので、観光客が多く、京都大学や同志社大学の最寄り駅なので、学生も多い、にぎわいのある場所なのだが、私以外、立ち止まって注目している人には出会ったことがない。
松の木が、石組を押しのけて生えているのなら、その生命力のたくましさから、パワースポットとして注目されたかもしれない。しかし、石組みの隙間にそのままで住み込んでいる、その地味な姿が、希少な現象であるにもかかわらず、注目されることがない大きな理由なのだろう。
この松の木を擬人的にみれば、状況に閉じ込められて未来への展望が全くない人である。この木に惹かれるのは、「それでも生き続けるメンタルの強さに励まされる」ことだと、最初の頃は頭で理解していた。しかし、この木と会って湧きあがるのは、そのような熱い感情ではない。静に状況を見渡す透明な風が、胸に吹く感じがするのである。
ふと気づいたのだが、松の木が石組を押しのけて成長していたらどうなっていたか?早晩、橋を管理する人の手によって取り除かれてしまっていたに違いない。あるいは長い年月をかけて、自らの足場となる橋を破壊してしまっていただろう。松の木は石組みの隙間に合わせて、それ以上、空間を押しのけることをせずに生きてきたから、生き続けることを許されたのである。
この木の放つメッセージの真髄は、状況にあわせた過不足のない、ちょうどよい生き方なのである。
松の木の生き方は、地球環境に対して人類全体に求められる生き方でもあります。
(2019年2月7日)
*表題の画像は、賀茂川(左)と高野川(右)が合流して、鴨川になる地点である鴨川デルタである。奥には、下鴨神社の鎮守の森が見える。右側の高野川に懸かる橋が河合橋である。
追伸
季節はめぐり、出町柳の松の木に会ってきました。北側に見える高野川の堤沿いは、桜が満開でした。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/49981134/picture_pc_f0b5dbb6be4f3fe80b89a09b26ec1a70.jpg?width=1200)
(2019年4月6日)
番外編1
筆者は医療職なので、感染流行時には、職場より、県外への移動の自粛を要請されていました。このたび流行が沈静化し、関西方面への移動が自由になったので、2年半ぶりに京都に出かけました。出町柳の松の木が、今どうなっているのか、とても気になっていたからです。
京阪電車の出町柳駅に降り立ち、河合橋の方へ見に行くと、橋は改修工事の真っ最中でした。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/65174669/picture_pc_cff7b9e101fed68261fbfae50ed3efaf.jpg?width=1200)
松の木はどうなっているのかと、欄干に眼を向けると、工事関係者によって無事に保護されているのが確認できました。
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/65174688/picture_pc_fec113f2eeaad14861cd8581db523aa2.jpg?width=1200)
一安心して、河合神社と下鴨神社の境内に出向き、帰りに再び松の木がある場所に立ち寄ると、工事関係者が松を救出している、真っ最中でした。
河合橋は鉄筋コンクリートの橋で、欄干の表面だけ、石で覆ってありました。ですから、松はコンクリートの隙間に根を伸ばして生き続けてきたのでした。工事関係者は、削岩機を使ってコンクリートを砕いて、コンクリートのブロックごと松の木を橋から取り出していました。
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/65174857/picture_pc_8e20edd5eb2f0ba474f323179ae732eb.jpg?width=1200)
2年半振りに再会したその日に、松の木が救出される現場に出くわすとは、・・。その偶然の出来事に、びっくりしました。我が心の友は、再会するまで待ってくれていたのだなあ〜っと、感慨深い思いがしました。
さらに、松の木は、私にとって特別な存在であっただけでなく、こうして手間をかけて救出されるので、多くの人にとっても特別な存在だったのが判りました。
松の木は、過酷な居場所で、幹や枝の成長がままならず、現状を維持しながら、ただひたすら生き続けただけなのですが、それが個人の主観を超えた、普遍的な意味や価値を持ちました。
今度また、橋の欄干に戻されたら、逢いに来ます。
(2021年11月6日)
番外編2
京都国立近代美術館で「没後50年 鏑木清方展」が開催されましたので、京都に出かけてきました。松のその後が気に掛かっていたので、展覧会のあとで、出町柳を訪れました。
河合橋は手入れが終わり、美しい姿になっていました。当然のことですが、もうそこには、あの松の木の姿はありませんでした。
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どこかに移植され、元気に生きていてくれることを願うばかりです・・。
松の木との再会は、すぐにやって来ました。
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鴨川デルタを覗いてみると、松林のなかに白いシートで保護されたエリアがあります。
近づいてみると、松の木が昔の姿のままで定植されていました。
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ひとまず、安堵です。
おそらく松の木は、この松林から種が飛翔し、河合橋の欄干に根付いていたのでしょう。図らずも、長い年月を経て、生まれ故郷に帰って来たことになります。
松の木の、状況に逆らわず、受け身に生きる姿には、考えさせらることが多くあります。
松の木は、筆者よりもこの先ずっと長生きすることでしょう。筆者は、この時代を束の間、伴走する存在に過ぎません。
偉大な命との、次回の再会が楽しみです。
(2022年6月11日)
番外編2つづき
久しぶりに松の木に会ってきました。葉や花がよく繁り、樹勢が勢いを増していました。
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松の木は、関係者によって「ど根性松」と名付けられていたことを知りました。
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筆者には、根性が意味する「苦しみや困難に耐え、事を成し遂げようとする強い気力」よりも、状況に適応する受け身のしなやかさが、この木の真骨頂だと思えます。目の前の壁である橋を突き破ることなく、展望が見えない中、生存環境の制限のなかで長年慎ましく生きてきた。そうして、ついに他者を動かし、他者の力によって生まれ故郷に帰還した。この地味さや無力さがなんとも魅力的です。
その後
夏が過ぎ、松の木は、青々と葉を茂らせていて、とても元気そうでした。葉の密度が増しているだけでなく、一本一本の松葉も長くなっている様子です。
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でも、新しい枝は伸ばさずに、とても慎重に控え目に生きている感じです。
最近の様子
松の木は、変わらずに慎ましく生きていました。鴨川デルタの川沿いは、もうすぐ桜が満開の季節になります。
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近況
季節はめぐり、また鴨川デルタにやって来ました。
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京都の街は海外からの観光客が溢れています。
さて、松の木はどうしているのでしょうか?
いよいよ再会の時です。
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松の木は、新しい松葉を勢いよく芽吹かせていました。
(2024年6月22日)