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ヨシダコウブンさんの造形作品と京都大原三千院・阿弥陀三尊との表現の一致性

広島県福山市在住の総合芸術家、ヨシダコウブンさん(表題画像)から、岡山市のクレド岡山にある伝説のセレクトショップdouce(ドゥース)に「神聖なケモノ・シリーズ」の新しい作品が送られてきました。douceオーナーの迫田美加子さんが荷物を開封すると、作品の中に、しっくりと展示できないものがありました。うつむいて地面を探索しているようなケモノが2体あったのです。

ヨシダコウブンさんからdouceに送られてきた作品(一部)

迫田さんはしばらく考えて、2体のケモノを起こして、ひとまわり大きいケモノと一緒にして、3体を並べてみました。

語りかけてくる作品達

すると3体がこちらに向かって語りかけてきます。そのメッセージが何かよく分からなかったのですが、景色がしっくりと来たので、お店に展示してみることにしたそうです。

週末にdouceを訪れた筆者は、3体を見て強い既視感に打たれました。・・それはかつて見た京都大原三千院の「弥陀三尊像」でした。

京都・大原三千院「弥陀三尊像」1)

三千院の境内にあった説明文によれば、弥陀三尊像は平安中期の作で、現在、国宝に指定されています。

中央に座している本尊の阿弥陀仏は、今すぐに民衆を極楽浄土に迎え入れようとするお気持ちが仏像全体で表現されているとの主旨が述べられていました。2)

阿弥陀仏の両脇に置かれているのは、観音菩薩と勢至菩薩だそうです。両仏は、慈悲と智慧をもって阿弥陀仏による民衆の救済をサポートしておられるということでした。2)
2体の仏は、正座をしていますが、阿弥陀仏の本願に従って民衆を迎え入れようと、これから今まさに、立ち上がろうしてちょっと前屈みになっておられるところを造形してあるとのことです。2)

心持ち腰を浮かせたような姿の観音菩薩座像  2)

そうして、弥陀三尊は「いろいろ悩みと迷いで苦しんでいるあなた方よ。そのまま待っていなさい。私たちのほうからあなた方を迎えに行ってあげますよ」というメッセージ発しておられるのだそうです。2)

迫田さんがプロデュースした、コウブンさんの作品を見てみると、中央のケモノは、座って何かを待っていますが、

腰が少し浮いていて、今にも前に飛び出しそうな勢いが感じられます。

両脇の2体のケモノは、

前屈みの姿勢です。

コウブンさんの作品の造形に弥陀三尊の本願がみごとに表現されているではないですか!

1000年余りの長い年月を経て、現代の芸術家を媒介として、douceに立ち現れたシンクロニシティにびっくりしました。

*文献の後に追伸の記事があります。

文献
1)講談社総合編集局・編:週刊 日本の仏像 原寸大 三千院阿弥陀三尊と大原. 講談社, 2007年9月20日, P18-19
2)小堀光詮(三千院門跡門主):みほとけのこころ 弥陀三尊の語りかけ:同上, P32


追伸
この出会いをきっかけに、作品の本願を他の作品がサポートしている3体関係が、芸術作品に多く潜在しているのに気付きました。筆者の身近でもいくつか見つかりましたので紹介します。

まずは、海野千尋さんによる陶布人形と陶のハンドベルです。

海野千尋・作「空を見ている子」、「ハンドベル」2021年 筆者蔵


3体がユニットになることで、少し緊迫感をはらんだ、海野千尋さん独特の世界観が強められる感じです。

つづいて、ヨシダコウブンさんによるウサギをモチーフにした神聖なケモノ(中央)と、倉敷白壁通りにあるアートギャラリー・ビョルンのオーナー、ハイジさんによる皿の上のウサギを造形した陶土作品(両脇)との組み合わせです。

ヨシダコウブン・作「R2」2022年、ハイジ・作「皿の上のウサギ」2018年頃  筆者蔵

3体とも異界からの使者のような、決して交わることができない断絶感を放っており、俗物が聖域に立ち入らないように守っている感じです。

さらに続いて、はらぺこうつわ、の山本薫さんによる陶土人形です。

山本薫・作「陶土人形」2021年 筆者蔵


空を見上げる人がモチーフです。3体が合わさると、より涼やかさが増している感じで、おいしい空気が画面から湧き出して、こちらへ吹き降りて来そうです。

次も山本薫さんによる陶土人形3体の組み合わせです。

山本薫・作「陶土人形」2021年 筆者蔵

中央の女性は憂いを漂わせ、両脇の少女達はまどろんでいます。憂いとまどろみが交じり合う空気感は、川の河口で淡水と海水とが交じり合う汽水域のような、少し落ち着かないゆらめきをはらんでいます。

もう一組も、山本薫さんによる陶土人形の女性達です。

山本薫・作「陶土人形」2121年 筆者蔵

3体が集まることで麗しさが増し、まるでギリシャ・ローマ世界の女神のようです。

続いては、異色の組み合わせです。
三宅木工房の三宅智之さんによるシロクマと、僧侶である天野こうゆうさんによる土人形の組み合わせです。

三宅智之・作「シロクマ」2021年  天野こうゆう・作「土人形」2022年 筆者蔵

3体は、ひたすらゆったりと立ち続けています。その姿は、「座禅」ならぬ、「立禅」を具現しているように感じられました。

最後に、原在加さんによる小鳥をモチーフにしたにミルクピッチャーと、倉敷美観地区の古道具屋ウームブロカント倉敷で見つけた古い酒杯との組み合わせです。

原在加・作「小鳥のミルクピッチャー」2018年 筆者蔵

3体とも液体を注ぎ入れる器ですので、ただひたすらに人の苦しみを受け入れてくれるような、清らかな神聖さが感じられます。

迫田美加子さんのプロデュースを起点とした多くの発見によって、とてもこころが満たされました。

芸術作品のおかげで、やさしい気持ちで過ごせそうです。

芸術作家の皆さんに感謝です。


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