久保田寛子さんによる人物像にみられた仏師・運慶の精神表現との相同性
久保田寛子さんは、山口県在住で、国内外において多くの賞を受賞した有力イラストレーターです。
画像は、久保田さんによるアクリル・ガッシュで描かれた人物画作品です。
久保田さんが描く人物像は、特定のモデルがいるわけではないのだそうで、自身にイメージされた人物を通じて、画家のメッセージが込められた作品を制作されます。
絵に描かれた人物は、やるせない苦悩を抱えているように見えます。おそらく、その苦悩は解決する見込みはないのでしょうが、解決されないまま棚上げにして、そのままで耐えて行こうとする強い決意がうかがえます。
作品は、オリエント山陽の榎本美恵さんによって、マットにシルバーの縁が設えられて額装されることで、人物の堅い決意がよりいっそう強調されています。
この人物が秘めた決意には、既視感がありました。
現在、奈良・興福寺の北円堂に安置されている、国宝、無著(むじゃく)菩薩立像と世親(せしん)菩薩立像です。
鎌倉時代の仏師、運慶によるもので、1181年の平家による南都焼き討ちで東大寺と興福寺が全焼したあとの復興期に制作されたものです。筆者は、東京国立博物館で開催された「運慶展(2017年)」と奈良・興福寺の特別拝観で2度、像を鑑賞・拝観しました。
無著と世親は、5世紀に北インドのガンダーラ国で活躍し、釈迦入滅後1000年後に仏教を新たに集大成し、広めた兄弟の学僧です。運慶は、貴族の治世であった平安末期から武士が台頭した鎌倉時代にかけての激動の時代に、自由で革新的な気風のなかで、写実とデフォルメにより精神まで感じさせる仏像を制作しました。運慶による無著・世親像には、極限まで知性と感情とを研ぎ澄ませ、透明で澄み切った揺るぎない決意を内に秘めた人物像が見事に表現されています。
久保田さんによる人物の内面表現と運慶による精神の造形表現とが、800年の時空を越えてリンクしたのでした。筆者の身に予期せず降りてきた壮大な奇蹟にびっくりしました。
1)東京国立博物館・法相宗大本山興福寺・朝日新聞社・編:興福寺中金堂再建記念特別展 運慶. 朝日新聞社 テレビ朝日, 2017, P134-147
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