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ファイバーアーティスト、李 侖京(イ ユンギョン)さんによる「赤い家」の造形

岡山市中区の岡アートギャラリーは、店主の岡 文子さん(表題画像)により、年間を通して数多くの魅力的は展示会が企画されています。

岡アートギャラリー(岡山市中区)
岡山城と岡山後楽園を望む旭川沿いの文化ゾーンにある。

過日(2022年6月15日ー20日)、岡アートギャラリーにおいて、企画展「ナニゴトノ不思議ナケレド」が開催されました。それは、それぞれの世界観をもつ5人の作家による、絵画、版画、石彫、ファイバー・アートを通じた、現在地の今、の競演でした。

画像は、ファイバー・アーティスト、李 侖京(イ ユンギョン)さんによる「赤い家」です。生まれ故郷の半島の布を染色し、手で丹念に縫い合わせて、立体が造形されています。

李 侖京・作「赤い家」2022年 筆者蔵

作者のイ・さんが在廊されていたので、ご本人に聞いてみたところ、イ・さんの制作スタイルは、家であれば、大まかに家を造形しようという意図はあるのですが、どのような家にするかは、作業をしながら次々とアイデアが浮かんできて、導かれるように制作が進むということです。

したがって、出来上がった作品は偶然の要素を多く含みます。ですから、作品の題名も暫定的な仮の名であり、作品が放つ意味の受け取りは、多くがそれぞれの鑑賞者に委ねられます。

この家は、家の最小限の要素から成り立っています。しかも、とても歪んでいます。しかし、布の面と面は、手縫いで強固に縫い合わされて、関係性が保たれています。そうして、家はひどく歪んでいますが、それでも、あるひとつの家だとはっきりと判ります。

・・筆者は、この作品から、人の一生に思を馳せました。どのような立場の人にとっても、生きることは苦悩の連続で、紆余曲折があります。しかし、最小限の大切なことを離さないようにして繋げていたら、この家が形が歪んでしまっても家であるように、人として保たれるのだと。

作者のイ・さん本人は、おそらく意識していなかったのでしょうが、この作品は、筆者を含めて、少なからぬ人達に勇気を与えるものです。

このアート作品のように、多義的で曖昧さのある作品は、作者の手を離れて、自分の力で歩んで行きます。
今は筆者に伴走してくれていますが、筆者よりも長生きして、また、誰かの伴走者となることでしょう。

追伸
イ・さんは、アイデアが“上から降ってくる”タイプのアーティストです。展示会場では、現場でつぎつぎとイメージが湧いてきて、ハイ・クオリティの展示が完成します。
画像は、岡山県立美術館で展示があったときのものです。

第11回I氏賞受賞作家展 ウツシヨノカガヤキ(2022年4月22日ー5月29日)岡山県立美術館
撮影:矢野誠,  加賀雅俊  *

*古川文子, 洪性孝・編,  矢野誠, 吉岡龍三, 加賀雅俊・撮影, Akihiro MARUYAMAデザイン:第11回I氏賞受賞作品展 ウツシヨノカガヤキ 李侖京. 岡山県立美術館. 2022, P2-3


番外編
今回、イ・さんが、岡アートギャラリーでインスタレーションを設営する際も、夜遅く一番最後に作品を搬入したにもかかわらず、手近にある材料を使って、あっというまに、クリエイティブな作品を仕上げられたので、店主の岡さんは、とても驚かれたのだそうです。

李 侖京さんのインスタレーション(岡アートギャラリー Photo by Fumiko Oka)
同 (Photo by Nahoko Sato)





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