知らなかったよ……❣

　家のかあさんは、いつもおかしなことばかりやっていて、ひとが笑うことばかりだったから、おばあさんが亡くなったときだけしか泣いたことがないのかと思っていた。

　妹が母が亡くなって少し経った頃に、ぼそっと言った。

「かあさんね、佐代ちゃんが高校受験のときに、少し離れた集落のおかあさんに、あんたんちの佐代子ちゃんは高校に行けるかい？って、いわれて口惜しくて泣いてたんだよ」

「おらが、佐代子はあんたんちの子より頭がいいのに！」って怒っていたって。

　そんなことは知らなかったよ。

　だから、私がケアマネになったときに、あんなに喜んで、会社に大量のサツマイモを送ってきたんだね。

　名刺をくれ、って、いったから、あげたら、仏壇に供えていたっけ。

　妹を介護するために仕事をやめたら「小説家になれ」と言い出した。

「おれの同級生に小説家になった人がいる。佐代子だってなれるよ。おれ、あんたには歌手の芸名をつけておいたからさ」といった。

　むかしっぽい、と思ったら、そういうことだったの。

　いぐちさよこさん、字は違いますけどね。

　力を貸してくださいな。