投資契約書の雛型を探したい起業家・スタートアップのための備忘録
起業家・スタートアップにとって、投資家から投資を受けることは、スタートアップの成長にとって重要なステップの一つであることに異論はないと思われます。ただ、見る所、起業家・スタートアップが投資家と対等な交渉を行える社会的基盤の整備は未だ十分でありません。弁護士を含む専門家が起業家・スタートアップをより強力に伴走支援することが、投資家の投資の促進に繋がり、かつ、わが国のスタートアップエコシステムの健全な発展に適うと思います。
スタートアップが投資家から投資を受ける際、起業家(経営株主)・スタートアップと投資家との間で締結する投資契約書等の関連契約書の内容の検討は非常に重要です。起業家(経営株主)・スタートアップとしては、投資家から提案される契約書案を漫然と受け入れるのではなく、弁護士等の専門家の支援も受けながら、内容をしっかり精査して交渉を行っていく必要があります。
その際は、政府や各種団体等により公開されている投資契約書等の関連契約書の雛型の確認・利用が有用です。
例えば、宍戸 善一・ベンチャー・ロー・フォーラム(VLF)編『スタートアップ投資契約 モデル契約と解説』の書籍については、株式会社商事法務のウェブサイトでWord版の添付ファイル(株式引受契約、A種優先株式発行要項、株主間契約)が公開されています。
(https://www.shojihomu.co.jp/publishing/details?publish_id=3156&cd=2828&state=new_and_already3156)
また、中小企業庁からは、A種優先株式投資契約書等のWord版の書式が公開されています。(https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/equityfinance/index.html)
さらに、一般社団法人日本取締役協会からは、モデル英文株式引受契約(Share Subscription Agreement)、モデル英文株主間契約(Shareholders' Agreement)、各バイリンガル版(解説付き)、各チェックシートの計6点が公開されています。これらの雛型は、日本のスタートアップが海外からの投資を受ける際に有用と思います。
(https://www.jacd.jp/news/opinion/230712_post-289.html)
そして、一般社団法人 Fintech 協会からは、スタートアップに対する株式投資を念頭に置いた「投資契約書雛形」、「株主間契約書雛形」、「買収にかかる株主分配等に関する合意書雛形」が公表されています。これらの雛型は、脚注での解説が豊富で、後記の公正取引委員会・経済産業省の指針に沿ってスタートアップと経営株主の利益を重視した内容となっています。
(https://fintechjapan.org/news/14365/)
なお、最近は、BAMBOO INCUBATORが、投資契約書雛形『ANGELs』を公開しています。こちらは、エンジェルラウンドにおけるエクイティ・ファイナンス用の雛型で、普通株式・みなし優先株式の発行に関する内容となっています。
(https://bambooincubator.jp/template/angels)
ところで、投資家が提示する投資契約書等においては、少なからず、スタートアップ本体だけではなく、経営株主等の個人に対する買取請求も可能な買取請求権の規定が見受けられます。しかし、公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」によれば、①株式買取請求権の行使条件について、重大な表明保証違反や重大な契約違反に明確に限定すること、②経営株主等の個人に対する買取請求が可能な買取請求権については,その請求対象から経営株主等の個人を除くことが競争政策上望ましいことが明記されています。
(https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/startup.html)
そこで、スタートアップや経営株主としては同指針も根拠にしつつ交渉を行っていくことが重要と考えます。
最後に、以上の雛型の確認・利用は有用ですが、当然ながら、各案件ごとに修正を行うことが必要となりますし、投資家との交渉では論理的な主張・説明を臨機応変に行っていくことが重要です。
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