
農業は待つ仕事?いや、実は考える仕事だった
農業を始めてから、「農業は自然相手だから、あとは待つだけでしょ?」なんて言われることがあった。でも実際にやってみると痛感する。これほど「待つ」だけじゃどうにもならない仕事はないと・・・。
確かに、作物は一晩で育つわけじゃない。種をまいたら、あとは時間をかけて成長を待つ。それは間違いないけれど、ただぼーっと待っていたら、うまくいくどころか失敗する。農業は「考えること」の連続なんだ。
例えば、天気。長野は昼夜の寒暖差が大きく、それが作物を甘くしてくれると言われている。でも、朝晩が冷え込む分、霜のリスクも高い。
ある日、天気予報で「明日の朝は冷え込む」と聞けば、その日は急いでビニールをかけたり、不織布で作物を覆ったりと、事前の対策に追われる。「自然はどうしようもない」と言うけれど、だからこそ、何もしないわけにはいかない。
それから、水の管理も結構頭を使う。水をあげすぎれば根腐れを起こすし、少なすぎれば育たない。特に、トマトみたいに「水ストレス」で甘くなる作物は、あえて水を控えるタイミングを見極めるのが肝心だ。スマート農業の水分センサーを使えば土の状態が数字で見えるけれど、それでも最終的には自分の目で畑を見て、葉の色や土の匂いを感じて判断する。
考えるのは作物のことだけじゃない。いつ何を作付けするか、どこで売るか、どうやってお客さんに届けるか——全部、経営の「戦略」だ。特に、作るだけでなく「どう売るか」も農業の大事な部分だと実感する。実際に、同じ野菜でも「なぜこの野菜を作っているのか」「どんなこだわりがあるのか」というストーリーを伝えられると、思いのほか買ってくれる人が増える。
東京でサラリーマンをしていた頃、マーケティングやブランディングなんて言葉は知っていたけど、まさか畑でそれが生きてくるとは思わなかった。
そして、一番考えるのは「失敗」したとき。農業は思い通りにいかないことの連続だ。天気に泣かされ、病気にやられ、収穫直前に獣害で畑を荒らされることもある。だけど、そこで終わりじゃない。「なぜ失敗したのか」「次はどうするか」を考える。それを積み重ねていくうちに、少しずつだけれど、畑も、自分も、成長していく。
農業は「自然と向き合う仕事」だと言われるけれど、実は「自分と向き合う仕事」でもあると思う。試行錯誤の毎日だけれど、その分、考えて手を動かした結果がちゃんと形になる。それが農業の面白さであり、続けたくなる理由だと思っている。