ウッドハミングバードの生態について
オキリア島の樹木は、十年に一度渡ってくるハチドリ達の一部が変化したものである。
ウッドハミングバードと呼ばれるこのハチドリたちは、オスは緑色の、メスは黄緑色の羽毛を纏っている。その嘴は他のハチドリ種よりも数倍長い。
これは、ウッドハミングバードの一部が、大地に深々と突き刺さり、樹木となるための道具として使われるために進化したのだと考えられている。
ウッドハミングバードがどうして樹木となるのか、樹木となる群体にはどのような特徴があるのかについては、よくわかっていない。
何名もの生物学者がこの謎に挑んできたが、どれも失敗に終わっている。
そもそも動物が植物へ完全に変化してしまう例など、ウッドハミングバード以外に存在せず、そのような変化を説明できる理論の用意は、どこにもないのである。
また、オキリア島で樹木となるウッドハミングバードと、樹木にならないウッドハミングバードとの間に有意な差は見つけられなかった。オスもメスも樹木になるし、繁殖に成功した個体もそうでない個体も等しく樹木となる。中には、生まれてすぐに樹木となった雛の事例も報告されており、ウッドハミングバードの生態の複雑さに拍車をかけている。
ウッドハミングバードたちは、樹木になる時、長い嘴が垂直になるように天空から落ちてくる。その高さは数十mから数百mと言われており、オキリア島の住民はこれを「天空の槍」と呼んでいる。確かに、鋭く尖った嘴を垂直に向けて落ちてくるウッドハミングバードたちは、槍以外の何物にも見えない。
大地に突き刺さったウッドハミングバードは三日の間に動物から植物へと変化する。つまり、嘴は根になり、胴体は幹に、また羽や足、羽毛などは枝葉へと変化するのである。
樹木となったウッドハミングバードたちは、三年で約二十mにまで成長し、赤色の果実をつける。この果実はウッドハミングバードの姿にそっくりで、可食部は非常に甘く、オキリア島の特産品となっている。
ウッドハミングバードが変化した樹木の寿命は十年である。これは、ウッドハミングバードがオキリア島に飛来する周期と一致する。
寿命の訪れた樹木は一ヶ月の内に朽ち果て、瓦解する。その直後に、ウッドハミングバードが飛来して、新たな樹木が、瓦解した樹木を養分としながら成長するのである。