獅子舞

 年が明けると、町は獅子舞で溢れかえる。
 一匹だけではない。何匹もの獅子舞が、様々な場所に現れるのだ。
 公園、住宅街、商店街に学校、町役場など、挙げたらキリがない。
 獅子舞たちは、どれもが同じ姿形をしている。背格好も同じだし、顔かたちも全く同じだ。クローンなのではないかと思えるほど似ているし、実際そうだと信じている人も多い。
 ただ、獅子舞たちはそれぞれの踊り方が違う。華麗に舞う獅子舞がいるかと思えば、オドオドと自信なさげに舞う獅子舞もいる。酒でも飲んでいるのではないかというくらい、身体をフラフラさせながら踊っていたり、咆え声なのか言葉なのかわからない音声を発しながら踊っていたりもする。
 この踊り方によって、獅子舞たちには名前がつけられている。
 曰く踊り上手、曰く意気地なし、曰く酔っ払い等々。踊りの見た目そのままの名前なので、かえってそっくりな獅子舞たちを上手に区別できているように思う。
 獅子舞たちは元旦の間、ずっと踊り回っている。だが、元旦が終わると、まるで煙のようにいなくなってしまう。
 彼らがどこから現れ、どこへ消えてしまうのかは、この町の七不思議の一つだ。
 僕は小さいころから、獅子舞たちを描き続けている。その甲斐もあってか、本職とは別に獅子舞画家として、ギャラリーで個展を開かせてもらったりもしている。
 僕は獅子舞たちのことが羨ましい。好きなように踊り回っている姿を見ると、自分もああやって踊りたいなと思うことが多い。いや、獅子舞たちもあれが仕事なのかもしれないから、これは隣の芝は青いというやつなのかもしれないけれど。
 町の中には、獅子舞は元々、人間だったのだと言う人もいる。色々なことに疲れてしまった人間が、最後に獅子舞になるのだと。
 これも他愛のない噂話に過ぎないのだけれど、そうだとしたら素敵だなと思う。
 僕は今日も夜遅くまで、獅子舞の絵を描いている。写真の中で踊っている獅子舞たちを、カンバスの中でも踊らせる。
 作業が一段落すると、僕は押し入れから獅子頭と身体を覆う風呂敷を取り出す。
 慣れた手つきで装着すると、自分がやりたい踊りを静かに踊る。いつか獅子舞たちに誘われて、仲間に入れてもらえるように。

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