ノーコードツールは「ちょうどいい」
先日ノーコード推進協会の定期総会が開催され、4つの部会のうちノーコードパスポートという認定制度を企画運営する「教育部会」の部会長に任命いただきました。
そこで、現時点でわたしが考えるノーコードの特徴やその良さついて書きたいと思います。※ あくまでも倉林個人の現時点の考えとして読んでいただければと思います。
ノーコードツールとは
ノーコードとは、プログラミングの知識やスキルがなくても、アプリケーションやWebサイト、業務ツールを構築できるプラットフォームやツールのことです。直感的なドラッグ&ドロップなどの操作でプログラミングしなくてもアプリを構築することができ、非エンジニアでも使えることが特徴です。
ノーコードのうち、特に企業で活用する業務システムを対象としたツールを中心に「日本のソフトウェア文化を変革する」ことをビジョンに掲げているのが、ノーコード推進協会(略称:NCPA)です。
ノーコードが出てくる以前は、業務システムはIT企業に依頼して構築するのがメインでした。業務ごとに専用のパッケージソフト(経理ソフト、文書管理ソフト、など)も存在しますが、日本の場合は「業務の個別要件・会社ごとのルールに合わせたフルスクラッチ開発」が多く、業務の特殊性が話題になることもありました。
一方で、近年のVUCAな状況で、企業がDXを実現するためには、従来の業務システムの構築方法ではなく、現場メンバーが、現場の意思で、現場で構築できる仕組みが求められています。そこにフィットするのがノーコードというわけです。
自分でできるツール
ノーコードはプログラミングの知識やスキルがなくても、業務システムが構築できるという特徴がありますが、単に機能としてUI/UXが優れているだけではなく、「現場メンバーが自ら考え、自分でつくって、自分で良くするという思考」を持てることも重要なポイントであり、NCPAではこのような思考を「ノーコード思考」と定義しています。
ちなみに「自分でできるツール」というのは「全部自分だけでやらなければいけないツール」ではありません。自分でできるツールであるということは、自分で考えたアイデアを自分の力でカタチにしてみることできる、ということです。
カタチにすることで自分の考えを整理することができ
カタチにすることによって他の人に伝えることができる
カタチにすることによって共通言語をつくることができる
ノーコードは「試作」や「思索」としてプロトタイピングができるツールということになります。
個人的に「プロトタイピングを自分でつくることができる」というのはものすごいことだと思っていて、大げさに言えば、「これまで中央集権的に握られていたシステム開発というものを、自律分散的に自分たちの手の中に取り戻した」ということではないでしょうか。
実はこのような分散的な流れは他にも見ることができ、例えば「メイカーズムーブメント」は大きな資本の下でしかできなかった製造をCADや3Dプリンターを使って分散していますし、「再生エネルギー」は地域の資源や地形を活かしたオフグリッドシステムです。「ファーマーズ・マーケット」なども、大規模生産・大規模流通から地域に分散した例と言えます。テクノロジー分野で言えば、パソコンやインターネットはまさに分散的なテクノロジーで繋がった仕組みと言えます。
このように、自分たちの手の中にある、分散テクノロジーに懸念点は無いのでしょうか。
人間とテクノロジーのちょうどいい関係
最近何かと話題のSNS。私も便利に使っているのですが、まさに分散テクノロジーのリスクが顕在化しています。SNSを見ていると「世の中は自分と同じ考えの人が多いなー」と感じることはないでしょうか。これはSNSのタイムラインの表示アルゴリズムによって「自分に興味がありそうな投稿」がオススメに表示され、自分と異なる考え方や情報が見えにくくなることで、フィルターバブルと呼ばれる現象です。
自分と同じような意見がたくさん流れてくるタイムラインは、ともすれば心地よいですし、自分の考えを強化してくれるので、ずっと見てしまうことになります。その結果「自分は自分の意志で情報を選び取っている」と思っていても実はSNSプラットフォームのアルゴリズムによって誘導されている、ということが起きています。
せっかく中央集権から離れ自分の手の中に手に入れたと思っていたこのテクノロジーが、実は思考停止させられ、そのテクノロジーに依存してしまうような状況だったとしたら?
ここで、以前も紹介した「コンヴィヴィアル・テクノロジー」と言う本を紹介したいと思います。この本では、人間とテクノロジーが共に生きる社会について書いてあり、行き過ぎたテクノロジーによって人を過剰に依存させたり、思考停止させられているのではないか、と警鐘を鳴らしています。
この本から引用します。ここではテクノロジーやそれを使う環境も含めて「デザイン」として捉えて、イヴァン・イリイチのメッセージを紹介しています。
「ノーコードは簡単で、何にも考えなくて良いから便利だよね」ではなく、
「ノーコードは、ちゃんと自分で考えて、自分で使うものを自分で作ることができる」というところを推していきたいです。
ノーコードは社会との接地面積が大きい
では、なぜ「自分で考えて、自分で使うものを自分で作る」にこだわるのか。それは、ノーコードが広く社会に受け入れられる可能性があるテクノロジーだと考えるからです。
今年、ノーコード推進協会の活動の一環でグラミン日本と協働でデジタル就労支援のプロジェクトを立ち上げました。
このプロジェクトは「ノーコードを学習して就労や収入アップにつなげる」というものですが、その中ではっきりとノーコードの可能性を感じました。もちろん「就労」や「収入アップ」につなげるには、ノーコードスキル以外にもたくさんのハードルがありますが、仕事のスキルとしてノーコードを学ぶということは多くの人に開かれたものになるのではないかと考えています。まさにノーコードは社会との接続面積が大きいと感じています。
まとめ
今後はノーコード推進協会の教育部会としてノーコードのさらなる民主化を実現すべく、ノーコードパスポートを活用して認知・育成を広めるとともに、企業でのノーコード活用のガイドラインなどを構築していきたいと考えています。
引き続きよろしくお願いいたします!