武蔵野プレイスの裏口から目指した「きら星」のどとんこつ。
武蔵境に用事がある日。なんだか今日は「きら星」が食べたい。そんな気持ちになる10月のこと。武蔵野プレイスを通り抜けて裏口から「きら星」を目指した。
壁伝いに這うぶっといダクトを通して、炊き出す豚骨の匂いを吐き出して来た濃厚豚骨の雄。2004年から。暖簾の先の扉から漏れ出る豚骨臭さにもう気持ちは前のめりのまま扉を開ける。
変わらない券売機と対峙していると、奥様から券売機は壊れているのでと案内を受けて、
「2種盛りチャーシューどとんこつ」と口頭で伝え、千円を渡し、お釣りを受け取る。
変わらないようで細かいところに年季が入るが滲んでいる店内。それでも真っ直ぐな臭さに包まれているのは変わらなくて、奥に見える大きな湯気を立てる寸胴になんだかそわそわとした気持ちになる。
流れるテレビのワイドショーの声が大きく聞こえているけれど、静かにロックも響いている。あの頃はがっつりロックがかき鳴らされてたなんて思い出してみた。
カウンター越しのご夫婦。どんぶりを温める。チャーシューを炙る。雪平鍋で熱々になるスープを注ぐ。いつもの奥様とご主人の阿吽な二人三脚の丁寧が伝わるに安心。
お待たせしましたと届けられるどんぶり一面に泡立つ茶濁したスープ。ふわり薫る豚臭さに舞い上がる気持ち。
いただきますと、レンゲで啜るぽってりとしたスープは直球のどとんこつ。豚の旨みが絞られた臭さと苦みが交じる濃厚な粘度。
うん、しあわせ。啜る、しあわせ、啜る、しあわせを繰り返すしあわせ。
そんなスープをしっかりと纏い喉を滑る柔めに茹でられた中太の少し波打つ自家製麺のぱっつんとした小麦が薫る歯応えに昇天する。
2種類のチャーシューは、ハム感たっぷりで噛むほどに旨みが滲む燻製されたものと、ホロホロでとろとろの厚めの炙られたやつ。うん、おいしいと頬張り交互に大切に噛みしめた。
ざく切りの玉ねぎの辛みときくらげのコリコリの食感は大好物。もう最後の一滴のスープに沈む麺と具を一緒に平らげて至福に包まれる。
なんだろう、なんかえいっと気持ちをあげないと訪れないくせに、食べたらすぐまた食べたくなるどとんこつ。
そんな魔力を持つ東京No1濃厚豚骨。また、えいっと気持ちが上がった時になんて思いながら店を後にしたのに、年末に悲しいお知らせが届く。
数年前から道路拡張による立ち退きの話があり、長い間、代わりの物件を探していたけれど、豚骨臭の問題もあり、移転をあきらめて、12月26日をもって閉店するなんてお知らせの通りに閉店。
19年間お疲れさまでした。またどこかでラーメンを始めることを心待ちにすることとします。
【きら星】
東京都武蔵野市境南町3-11-13