#005 | 短篇映画
専門学校の友人が夏休みに短編映画の制作をした。
何でもコンテストに出す作品とのことで、三分間のホラー作品だった。
撮影は全編校舎ビル内で行われ、撮影は学校で貸し出されている家庭用デジタルビデオが使われた。
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ある日、監督を務めたT君からぜひ見て欲しいとビデオを貸り受けた。彼の実力は学校中でも有名になっており、私もその事をよく知っていたので、期待しながら夜中に自宅で鑑賞した。
ストーリーは、夜に残業していたOLが突如現れた幽霊から逃げ惑うというもの。どこに逃げても執拗に追いかけてくる「それ」に最後は捕まってしまうのだ。
一度見終えて、妙な違和感が残った。
だが、短いながらもとても完成度が高かったので、特別気にせずにもう一度見た。
やはり途中のシーンに違和感を覚え、気になる箇所で一時停止してみた。
OLが部屋から飛び出し、エレベーターのある通路に出て行くシーン。
両側にエレベーターが二基、奥は非常階段へ出るガラス扉がある。
一時停止したその画面を見ると、ガラスの隅に白い人影が映っている。映画的にどこへ逃げても必ず相手が先回りして追いかけてくる内容だったので、これもその一つかと思った。
しかし、次のシーンでOLはなかなか来ないエレベーターを諦め、非常階段に出るのだ。
OL役の女優がそれに気づいている素振りはないし、第一何らかの理由がない限り、主人公が逃げる対象に向かっていくのはおかしい。
シーンをコマ送りして、人影がよりはっきり見えるところを探してみた。
何度も行ったり来たりしていると、もう一つ妙なものが目に入った。
非常階段へ出るガラス扉の脇に、金網のゴミ箱がある。OLを追いかけてカメラが動く時にアップになるのだが、ゴミ箱の中に捨てられている紙屑が、人の顔や手足のように見えるのだ。
これも演出なのだろうか……。
気になったが、良作に変な難癖をつけるみたいで気がとがめ、結局、人影は他の出演者、紙屑は映像の演出だと納得することにした。
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翌日、ビデオを返す際、これらの事には触れないで純粋な感想だけを伝えた。
「あのエレベーターのシーンだけど、主人公の焦りが出てて怖かったなあ」
本当に迫真の演技だった。全員素人だったにもかかわらずなかなか鬼気迫るシーンだった。
が、問題の箇所でもある。
すると、T君はさらっとこんな事を言う。
「あ、あそこね。でも、ホントはあのシーンに幽霊を出してもっと怖くすればよかったって、今でも後悔してるねん」
私はこれ以上、話を続けられなかった。
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