#002 | リバーサイド
高校生の頃、同級生で一番仲がよかった友達にS君という人がいた。
私は度々彼の家に行っては、二人、もしくは数人でくだらない事ばかりして遊んでいた。
その日はS君の提案で近くの川沿いにある廃病院に行くことになった。
そこは、医療ミスや闇献金問題などでニュースでも話題になった病院で、当時まだ廃院になったばかりだった。
そして例に漏れず、この場所も入院患者の幽霊が出る、などという噂が立って若者の好奇心に火をつけていたのだ。
私はあまり気が進まなかったが「絶対何も起こらない」と言うS君の押しの強さに負け、二人で廃病院に向かった。
所々窓ガラスが割れているものの、外観はまだ綺麗な状態だった。
夏場で日も長く、夕方にもかかわらず日中のような明るさだ。私たちは開きっぱなしの自動ドアからゆっくりと足を踏み入れた。
外観と同じく、院内もそれほど荒れてはいなかった。
S君は鞄から持ってきたビデオカメラを取り出して、早速中を撮影している。
「おい、そんなことして大丈夫か?」
すっかり萎縮してしまった私の発言に「大丈夫、大丈夫」と強気なS君。
実は、彼はこの手の話をまったくと言っていいほど信じていない。今回は、ビデオカメラで撮影することで「何もない」事を証明すると息巻いていた。
三十分ほど回ったところで、私たちはS君の家に戻った。
S君の部屋ですぐにビデオを再生した。
テレビに病院の廊下に立った私の姿が映し出された。
最初は、食い入るように見ていたS君も、十分ほどするとすっかり飽きてしまい漫画を読み始めた。
退屈な映像だったので、私も少し飽きてきて画面をぼーっと見ていた。
「もう、帰ろっか」というS君の声が聞こえて、やっと終わりか、と息をついた時、映像の中の私の後ろをスッと白い塊が横切った。
「あっ!」
思わず声を上げ、私はビデオを少し巻き戻して再生した。
S君も「どうしたん?」と漫画を置いてテレビを見る。
廊下に立っていた私がS君の声でカメラの方を向いた後。
私の背後にあった部屋から白衣の女性が出てくる。
その女性は廊下を奥に進み消えた。
左腕が関節とは逆の方に折れ曲がっていた。
私は怖さのあまり鼓動が早まり言葉も出なかったが、S君は至って冷静だった。
「たまたまそんな風に見えるだけや」
と、ビデオからテープを抜き取ると、ゴミ箱に捨ててしまった。
数日後、彼の家に行くとギブスをしたS君に出迎えられた。
何でも、所属していた柔道部の模擬試合中に転倒して骨折したのだと言う。
あの白衣の女性のように、左腕を関節とは逆に折ったのだそうだ。
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