【バリ島一人旅の足跡_#5】クアラルンプール国際空港。
僕の人生を大きく変えた、バリ島一人旅。
このブログシリーズも5回目を迎えようとしているのに、まだバリ島に一歩も足を踏み入れていない。それくらい、旅に出発するまでの出来事が濃密だったのだ。それでも、端折りに端折って、ようやく今、旅の第一関門となるクアラルンプール国際空港にいる。
時間は午前4時。まったく人けのない空港。完全に道に迷う私。案内カウンターにスタッフはおらず、たまに見かけるのは、確実にマレーシア語しか話せないであろう清掃員スタッフのみ。まあ、英語もロクに喋れない僕にとっては、どっちにしても状況はかなり良くないのだが、このシーンと静まり返った空港ロビーの雰囲気がイタズラに不安をかき立てる。
思えば1年前に初めてバリ島旅行を経験した時は、すべての段取りを現地に詳しいカメラマンのIさんがやってくれた。今回は誰の力も借りず、困った時の助けもなく、旅行代理店にも頼らず、すべて自力で行うと決めている。その最初のハードルが「現地まで無事に移動する」ことなのだが、初めて一人で外国の地に降り立つおっさんにとって、トランジット(乗り継ぎ)の壁は決して低くない。
いくら探しても、ロビーの発着案内版に「Bali」らしき文字は見当たらない。涙で霞んで見えていなかっただけの可能性は大いにあるが。
本当に誰もいない、ある種、SFの終末感すら漂う異国の空港。すでに足取りは重い。こわごわと「International departure」と書かれたエスカレーターを登ると、閑散としたロビーと小規模の手荷物検査場が出現。こういう関所を間違ってくぐると、後々面倒になることぐらいは僕にも分かる。
僕はとっさに航空券を取り出し、スタッフに「Bali?」と一言告げてみる。まさに単語一発。Whereとかいう関係副詞など一切使わない、世界で最も短いコミュニケーション。下手に「コイツは英語が喋れる」と勘違いされて、ベラベラ喋られても困るのだ。そして、こんな単語だけで意味が通じるのだから、世界は美しい。
「ああ、そっちから入れるよ」
なんかよく分からないマレーシア語を発したけど、きっとあなたはそう言ったんだね。かくして誰もいない検査場で簡単な手荷物検査を終え、恐る恐る先へと進む。すると今まで薄暗く、どこか陰気だった空港が、一気にウェルカムな明るい空間へと変貌を遂げる。
「人がいる!店がある!」
過去に母を連れて一度だけ行ったことがあるディズニーランドよりも、夢と希望あふれる世界がここに!旅慣れた人には本当に他愛のない話ではあるが、海外一人旅初心者にとっては、こんな小さな出来事も、一生の記憶として残り続けることになる。
1と2はそれほど離れていないけれど、0と1には無限の開きがある。僕が尊敬する棋士・羽生善治さんの言葉だ。まったくの未体験を、まず1にしてみること。その大切さを、僕はこれから始まる10日間の旅の中で実感することになる。
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