日々是くらげ13日目「『時間は存在しない』を読んで締切は存在している時間系の『今』を生きるしかないんだよねと気づいた話」
いつも感じることだけど、本当に良いと思った本を読み終えたときはまるでひとつの旅を終えたような満足感とちょっとした寂しさがある。今回読んだ「時間は存在しない」も科学的な本ながらそのような感情が溢れてきた。
この「時間は存在しない」はイタリア人理論物理学者カルロ・ロヴェッリが時間についての考察を徹底的に行った科学書である。2年ほど前にKindleのセールで半額だったので他の本と一緒に衝動買いした一冊で、長らく紐解かれていないデータとなっていたが、ここのところ「締め切り…」と唸っていてる日々で「現実逃避」を兼ねて読み始めた。
私は昔からSFが好きだけど、科学的な知識はそれほど豊富ではない。特に数式に関しては非常にアレルギーがあって、もうちょっとした方程式が出てきたらその本は理解できないと諦めてしまう。しかし、本著は時間に関する考察の本ながら、数式は殆ど出てこない。一つ重大な式は出てくるが「読者にはこの数式を出したことをお詫びする」と謝罪をしているくらいだ。
ただ、数式はわからないけど、現代の科学では「時間は存在しない」というか、「宇宙に時間は定義できない」という説が優勢なのはなんとなく知っていたが、この本の前半は古典力学や相対論力学の議論からはじまり量子力学の発展から「時間は科学的には存在しない」という結論を導き出す。
その過程はわかりやすい例えが数多く挿入されていて、飽きっぽい私も読み終えることができた。そして「時間は存在しない!つまり宇宙的には締切も存在しないのだ!」と叫びたくなったし、ケンタウルス座α星に向かって旅立ちたくなった。まぁ、生きている間に火星に民間人が片道旅行で向かうのを見送るくらいになるのだろうけど。
ここまでならよくできた科学書なのだけど、宇宙に時間がなくても、私が「締切は存在しない!」と叫んでもどういうわけか、少なくとも人間が時間と呼ぶものは消え去らない。それはなぜなのか、と突っ込んで考察を重ねたのが後半の肝だ。また、これまで無数にあった時間の考察がなぜ混乱を極めているのかを「そもそも時間とは重層的なものだ」という視点から解説している。
一読しただけではちょっとわかりにくいのだけども、著者が言いたいのはおそらく「人間の感じている時間は人間がいるから生じている」ということなのだと思う。過去から未来を予測するというのは人類が進化する過程で作り出した脳の機能であって、脳科学の観点からそれは少しずつ正しいと考えられるようになっている。だから人間には「時間がある」という系で生きているのだ。私が(それでも本を読んでこの日記を書くがゆえに)締め切りに悩まされているのも、人間としての生計を立てるために人間の世界で生きなければいけないからなのだ。辛い。
しかし、こういう「時間の感覚」は人間独自のものだということを知ると人生にどう影響があるかというと、人間は人間の時間から離れることができないゆえに日常生活にはさほど意味は存在しない。でも、旅行に行ってその先で経験したことは旅から帰ったあとの日常的な生活にはあまり関係しない事が多い。それでもなにか「感じること」に差異ができているはずで、過去が作った差異の重なりが(いみじくもこの本で明らかになるように)「私」を組み上げていく。
大塚英志の創作論の中で「物語の基本は『行って帰るの反復運動』」と書いていて、それはすごく私の中で大事なテーマになっているのだけど、今回のような本を読むことはまさに行って帰ることなのだと思う。なにか日常が変わるわけではないしおそらくはそれほど遠からず記憶も薄れていくのだけども、これを読んだ自分とそうでない自分のあり方はちょっと変わっている、という確信があることが「本を読む」ということなのだし、それが大著であればあるほど、遠くまで行って帰ってきたという満足感が得られるのだと思う。
この本では人間には「現在しかない」のだけどその現在には「無数の過去」が積み込まれているという考察がある。自分がどういう未来を生きたいのかと考えたら「未来から見た過去」(すなわち今)をどう生きるか、ということにもかかっているのだろう。というわけで、未来の自分が締め切りに困らないためには、現在をしっかりとした過去にしようと思うのだ。まぁ、それをする方法は37年生きていてよくわかってないのだけど。さて、本日の日記はこれくらいで。では。(おまけ数字あります)
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聴覚障害・ADHDの当事者「くらげ」の日記です。障害のことや社会のことなどを身近な生活から考えていきます。最後のおまけだけを有料にさせてい…
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