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ひきがえるの社 第二話


#創作大賞2024   #ホラー部門 #神社

鬱蒼と茂る森が風でどよめく。
日は落ち、暗い闇に森は溶けていく。
 
「それ」はまるで最初からそこにあったかのように、平然と鳥居の両脇に座っていた。

苔むした体は長身である父さんよりもはるかに大きい。でっぷりとした大きなまんじゅうのような形は可愛さよりも気味悪さをかんじるほどだ。
カエル特有の鼻と、でこぼこが浮き出た頭。そしてなぜか瞑っている目ーーーー


ひきがえるーーーーー

苔むしたひきがえるの石像が、鳥居の両脇に
ずんぐりと座っていた。

こんな大きさのひきがえるはいないにしても、
すごくリアルに彫られている。苔も少し濡れているように感じて、かえって気味悪さを増している。

僕は驚きやおののきよりも、何故かこのひきがえるの像に圧倒されていた。
ここが神社だからだろうか。神秘的なものを感じてすらいた。

僕はしばらく鳥居の前から動けずにいた。が、
父さんの走ってくる足音でやっと目が覚めた。

「な、本当にあったろ。こりゃあ一体誰の仕業なんだ」
僕の肩をゆすりながら、父さんは息を切らす。
困っているというより半ば興奮しているようにも思える。

「さあ………」
僕は我にかえったものの、まだひきがえるの
その顔から目を離せずにいた。

「けいとーー、お父さーん、
いったいどうしたのーーー」

お母さんが遠くから呼ぶ声が聞こえた。
でも足が不思議と動かない。
何かの引力にのまれるように、僕はただたちすくむ。

「けいと、この中ちょっと入ってみたくないか?
なぁに、ひきがえるは誰かの悪ふざけだよ。
いつものお参りをしてすぐに帰ろう、な、」

ぽんぽんと僕の背中をたたく父さんの目は少しきらきらしているように見えた。
でも僕も同じ気持ちだ。こくんとうなずいて
父さんのごつごつした手を握った。

夜のせいか、はたまたひきがえるのせいか、
いつもの神社がおどろおどろしく感じる。
石畳みも少し濡れているようで、滑らないように父さんの手に少し体重をかけた。

朱色の鳥居までやってきた。鳥居をくぐる前にちゃんとお辞儀をする。鳥居をくぐり終わった後、ひきがえるの目が少し開いたような気がしたのは気のせいだろうかーーーー

***

僕たちはまだ知らなかった。この時、鳥居をちゃんと見ていればこんなことにはならなかったんだ。そう、ちゃんと見ていれば良かった。鳥居の苔が文字の形に剥がれ、赤色の肌が剥き出しとなってこう書いてあったのを。



「ひきかえすならいまのうち」



***


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