見出し画像

ひきがえるの社 第一話


#創作大賞2024 #ホラー小説部門

これは、僕たち家族が体験した
ある夏の夜の物語ーーー。


****

カナカナカナカナ………
ひぐらしと共に夕焼けが空に溶けてゆく。
森の木々は暗く沈み、もうすぐ夜がやってくる。

「けいとー、夏やすみの宿題終わったのかー?」
隣を歩く父さんが煙草を吸いながら聞いてきた。
その吐いた煙でいつも少しむせる。
「全然まだまだよねぇ、今日も必死にプリントしてたじゃない」
母さんがそう髪をかきあげる。
ちょっと嫌味っぽい言い方だ。
「まあまあ、ゆっくりじっくりやればええが」
杖をコンコン鳴らしておばあちゃんがそう微笑んだ。

夕飯を食べ終わった後の家族での散歩。
そよそよと流れる風が涼しくてとても気持ちいい。昼の茹だるような暑さは今は忘れてしまっている。

「そろそろお宮さんに着くなぁ」
父さんはしゃがんで煙草を地面に擦り付けた。

いつもの散歩コースに、それはそれは古い神社がある。錆びれた朱色がやっと見えるくらいの鳥居が建つその神社で、僕たちはいつもお参りをして散歩コースを引き返していく。

「じゃあ先に行ってるな」
少し早歩きで父さんは神社へ向かった。
いつもそうだ。なんでも、神社を独り占めする時間が格別だとかなんとか。それでいつも3人が置いていかれることとなる。

でも、今日は様子が変だった。

道の先で神社の辺りに向かう父さんが見える。この後、いつもは手を合わせて仰々しく森の中へ入っていく。

けれど今日は、手を合わせることもなくそのまましばらく動かなかった。

そして次の瞬間、早歩きどころか猛スピードで息を切らして僕たちのところに戻ってきてはこう言った。


「なぁ、あの神社にあんなもんあったか」

父さんの顔に驚いて固まっている母さんとおばあちゃんを置いて、僕は一目散に神社に走った。
いつもの道は変わらない。

鬱蒼と茂る森。
ひぐらしの鳴き声。
いつもの錆びれた朱色の鳥居。

けど、決定的に違った。

「それ」は鳥居の横に忽然と姿を表していた。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?