長距離恋愛販売中【毎週ショートショートnote】
ハンドルを握る彼の横で口紅を塗り直しながら、2号線を西へ向かっている。
初めて彼と会ったのは、半年前だった。
「大学の後輩。今日から入るから」
入れ替わりが多い店のため、店長からの素っ気ない紹介も皆気にはしなかった。そんな職場だから、誰かと仲良くなることも稀だったが、彼とはシフトが重なることが多く、自然と話す機会が増えた。思うように売れない日も「ケイちゃんのせいじゃないよ」と励ましてくれた。
「車で待ってる」
いつもの一言で、仕事が終わり彼の車に乗り込むと、不思議な安心感に包まれた。紛れもなく、私は彼を愛していた。
川沿いの一角にある古びたホテルで、彼は車を停める。
「今日は302号室。この人ケイちゃん指名するの今月で3回目だよ。こんな長距離なのに。相当惚れてるな」
私は口紅をポーチにしまう。
「客との恋愛はNG。いつも店長言ってるだろ。やるならバレないようにな。じゃあ車で待ってる」
エンジンが止み、静寂が広がる。
途方もなく遠くまで。
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