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風を治すクスリ【毎週ショートショートnote】
臆病風に吹かれている。
ミスチル風に言えば聞こえはいいが、単に落ち込んでいるだけだ。先週、初めて付き合った彼女に振られた。「一緒にいても楽しくない」、そんなキツい一言を浴びせられたのだ。ついでにウイルスも浴びたのか、翌日から風邪気味だ。
薬を買うためオープンしたばかりのドラッグストアに行った。レジに向かうと、白いシャツにカーディガン姿の女性が立っていた。少し年上に見える。
波風が立った。
アプリで10%引きになるらしく、スマホを取り出し操作する。
「そこをタップして…」
彼女との距離はおよそ20センチ。
「…喉が」
「え?」
「喉がイガイガしてて。これで大丈夫ですかね?」
「あっいや、私薬剤師じゃないので」
「えっあっ、そうなんですか」
「紛らわしいですよね。すみません。でもイブプロフェン配合がいいと思います」
「イブプ?」
「痛みを抑える成分です」
「痛み?…まだ残ってる…かな」
ポカンとした後、彼女はクスリと笑った。
勇敢な恋の歌が聞こえた。
(412文字)