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うらやましいという言葉を引っ込めた『PERFECTDAYS』映画感想文
久しぶりに映画を観ることができたので、感想を。
ネタバレありです。ご注意を。
役所広司さんが演じるおじさん、平山さんの仕事は、東京の公衆トイレの清掃。浅草の安いアパートに住み、古い車でカセットの音楽を流しながら出勤。
都内のきれいな公衆トイレを丁寧に磨き上げ、駅の居酒屋で簡単な食事、古本屋で買った小説を読み、眠りにつく。そして掃除のおばあちゃんの箒の音で目が覚め、似たような日々をくり返す物語。
彼の趣味は、木々を眺めること。休憩中は神社でサンドイッチを食べ、木を眺めて一枚だけ写真を撮る。小さな木の子どもを持ち帰らせてもらい、家でもライトを当て、霧吹きで水をかけ、育てる。
彼の仕事に打ち込む姿勢はとてもいい。
彼は低賃金の労働で疲弊しているわけでもなく、むしろ楽しんでいる。朝ドアを開けたら空を見上げ、人と話した後はにこやかに微笑む。楽しそうな人だと思った。
最初の感想
おじさんの日常が繰り返される。好感が持てるおじさんだ。
後から何か起こるだろうとのんびりと構えていたが、3分の2くらいまでほとんど何も起こらなかった。
平山さんは習慣の人だと思った。習慣の中で、心地よく過ごしている。なんだか、コロナ禍で隔離されても、限られた条件の中で楽しんでいる人みたいだ。そして彼はスマホを持たない。
途中金髪の女の子と恋が始まるかと思ったけど何も起こらず、姪っ子が転がり込んできたけど家に帰し、別のおじさんと一悶着あるかと思ったら、一緒に陰踏みをして遊んでいた。
てっきり、姪っ子と一緒に旅にでも出て、PERFECTDAYSな日々を送るのかと思ったよ。
ラストはハンドルを握る役所広司を正面から2分以上写し、彼は笑うのだけど、ときどき不安そうな表情になり、目に涙を浮かべていた。
終わったとき、「うーん!」と唸ってしまった。
1日寝かせた感想
水槽の中の自由という言葉が浮かんだ。
魚にとっての自由は、空を飛ぶことではなく、水の中を気持ちよく泳ぐこと。もちろん海や川は素敵かもしれないけど、メダカは水槽の中をのんびり泳いでいる。
平山さんは、たぶん、水槽の中で生きると決めた人だ。それも小さな水槽で。
自分の生活を縮小し、小さな範囲で楽しく生きている。
(安いアパート、木々を眺める、銭湯、小料理屋で一杯、古本を買うなど)
役所広司さんの演技が素敵で、ちょっとうらやましい。
平山さんのように日常を楽しみ、味わう大切さを学び、「やっぱりささやかな幸せをしっかり噛み締めるべきですよ」みたいなことも考えたけど、うらやましいという言葉を、そのあと引っ込めた。
ここから先は、仮説です。
平山さんの過去とか
いちばんびっくりしたのは、姪っ子を迎えに来た妹のシーン。姪っ子とは最後ハグをして別れ、その後、妹ともハグをしたのに驚いた。
「本当にトイレ掃除をしているの?」と言ったいい暮らしをしていそうな妹が、「今後、娘に近づかないでくれる?」と言うかと思ったら、ハグをした。そして、小さな暮らしを選んだ兄を、心配そうに見送っていた。
車が行った後、平山さんは泣いてた。
たぶん、平山さんはお父さんと何かあった。もしかしたら、奥さんも亡くしたのかもしれない。自分で決めて、ある時期からトイレ掃除を選んだ。
平山さんは寡黙で穏やかな人だけど、物語の後半に携帯電話を取り出す。辞めてしまった若者の分までトイレ掃除をして遅くなり、「今日はいいけど、毎日は無理ですからね!」と少し怒る。
小料理屋であら〜って場面に遭遇した後は、缶ビールとタバコを買って、川を眺めながら咳き込む。携帯持ってて、タバコも吸うんだ。
数多くのカセット、そして小説。ささやかな日常を楽しむ姿勢。教養という言葉はあまり好きではないけど、彼は教養を持ち合わせている。
昔はどんな人だったんだろうね。
もしかしたら彼は豊かな暮らしをしていて、そこを自らの選択で降りたのかもしれない。繰り返しになるけど、小さな水槽で生きることを選んだ。
ラストの解釈とか
平山さんは寂しさに駆られてないし、日常を楽しんでいる。
でも、心地よい習慣が崩れた時、ちょっと彼の陰が見えた。
ハンドルを握る平山さんは、いろんなことがあったけど、今日も楽しく笑ってた。でも、ちょっと不安そうな顔になって、涙も少し浮かんでいた。
小さな幸せを楽しむ姿を、うらやましいと思った。でも、ちょっと引っ込めた。そんな物語でした。
みなさんの感想も聞きたいです!
読んでいただきありがとうございました。