六章 雨の日のお客様の正体1
夏に近づき一雨ごとに暑くなるこの季節。仕立て屋アイリスに小さなお客がやって来た。
「……こんにちは」
「いらっしゃいませ。あ、貴女はこの前の……」
女の子が店に入って来ると手に持っている大人のメンズ傘を落とさないようにと抱え直す。
その少女の顔に見覚えのあったアイリスは急いで棚から依頼された品を取り出しに行く。
「いらっしゃい。おや、君は確か――」
「傘、ありがとう。これ、返しに来ました」
イクトもカウンター越しから声をかけると女の子の顔を見て微笑む。
少女がそう言うと小さな手で一生懸命持ってきた傘を差し出す。
「わざわざ返しに来てくれたんだね。有り難う」
「はい、この前ご依頼いただいた服のお直し出来てますよ」
彼が差し出された傘を受け取っているとアイリスが戻って来てドレスを女の子へと渡す。
「……ちゃんと、直ってる?」
「勿論です」
不安そうに尋ねる少女に彼女はにこりと笑い答える。
「……ふぁあ」
アイリスの言葉に従い受け取ったドレスを広げてみると、透き通るような水色が視界一杯に広がった。
「これ、お母さんがずっと着ていて大切にしてきたドレスなの。私が受け継いで大切にしてねって言われていたのに、木に引っ掛けて破いてしまって……でも、元通りに直ってよかった」
「そうだったんですね。良かったら試着してみますか?」
「うん!」
大切そうにドレスを抱きしめ語った女の子へと彼女は尋ねる。それに少女が笑顔で答えると試着室へと入っていった。
いいなと思ったら応援しよう!
![水竜寺葵](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/83900991/profile_7751dff2045872883b991edae3f178ff.jpg?width=600&crop=1:1,smart)